最終更新日 24/10/09
注目企業海外スタートアップ

直近200億円調達、日本にも進出決定!NYでイチゴを生産するスタートアップ【Oishii Farm】を解説!!

サステナブル農業食品
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日本人にとって甘くてみずみずしいのが当たり前なイチゴ。一方海外では「酸っぱすぎる」「パサパサしている」など、その品質にはばらつきがあり、おいしい果物が手に入りにくいのが現状です。実際、農林水産省によると、日本の果物は年々海外で人気を博しており、令和4年の輸出額は約316億円を記録しました。

そんな中、アメリカのイチゴの品質に注目し、創業されたのが「Oishii Farm」(オイシイファーム)です。同社はニューヨークを拠点に植物工場を展開し、日本の農業技術や工業技術を活かして、工場内で高品質なイチゴを生産・販売しています。

Oishii Farmのイチゴは、ミシュランの星付きシェフやハリウッドセレブにも人気で、その将来性の高さからシリーズBにて、200億円の資金調達を達成しました。さらに、2024年10月8日に同社は、世界最先端の植物工場の研究開発拠点「オープンイノベーションセンター」を設立する、ことを発表しました。

今回は、そんな急成長を遂げるOishii Farmの事業内容だけでなく、最新の資金調達情報2024年6月に本格稼働した巨大イチゴ工場や「オープンイノベーションセンター」の特徴も紹介していきます。


事業内容:アメリカの植物工場でおいしいイチゴを量産

1パック20ドルの「Omakase Berry」(引用:https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220719/se1/00m/020/062000c)

Oishii Farmは、日本の農業技術をベースに開発された独自の栽培方法と受粉技術を駆使し、アメリカの植物工場にて高品質なイチゴを生産・販売しています。同社はニューヨークを拠点に植物工場を展開し、アメリカの天候・農業技術では生産が難しい、甘くて形の整っているイチゴの量産を成功させました。

工場内で育てられ品質が一定に保たれたOishii Farmのいちごは、ミシュランのシェフの舌を唸らせるほどで、ニューヨーク中のミシュラン星付きレストランや五つ星ホテルからの問い合わせが絶えないそう。

また技術革新などを通して、価格を当初の1/5まで下げることに成功し、ホールフーズ・マーケットなどの高級スーパー約100店舗で販売をスタート。主力作物のイチゴを詰め合わせた「Omakase Berry」は1パック8〜11個で20ドル(約2600円)と、一般的なイチゴパックの約4倍の値段でありながらも、連日売り切れているそうです。

なお最近はイチゴに続き、フルーツトマトの販売も開始しており、ますます注目を集めています。

植物工場の研究開発拠点「オープンイノベーションセンター」2025年設立予定

(出典:https://oishiifarm.co.jp/blogs/news/release-1008-open-innovation-center

Oishii Farmは、2025年内に「オープンイノベーションセンター」を開設することを発表しました。同センターでは、以下の領域における技術研究を実施する予定です。

  • 農業領域:植物工場向け最適品種、栽培技術等
  • 工業領域:ファクトリーオートメーション、AI環境制御システム等

日本に「オープンイノベーションセンター」を設立した背景には、日本の優れた技術力があるという。日本は、植物工場に不可欠な農業と工業の両分野で世界最高水準の技術と研究者、企業を有しており、技術開発に最適な場所です。

Oishii Farmは、この技術力を活かし、新たな果物や野菜の生産、さらなるおいしさの追求を進めていくでしょう。

参照:植物工場スタートアップ「Oishii Farm」日本進出、首都圏にオープンイノベーションセンターを設立

約200億円を投じた巨大イチゴ工場を2024年6月に本格稼働

Oishii Farmはおよそ200億円を投じた、新たな巨大イチゴ工場の本格稼働を2024年6月にスタートしました。米ニューヨーク市中心部から西に110キロに位置する、ニュージャージー州フィリップスバーグ市にある同社の新工場は、敷地面積が2万2000平方メートルに及び、東京ドームの半分ぐらいの大きさを誇ります。

日本のイチゴの生育期間は12月~3月ですが、工場内では温度や湿度、二酸化炭素、光、風速などが最適に保たれ、年中収穫することが可能です。なお種は日本のブランド品で、農薬は一切使っていないそう。またイチゴを栽培する棚は垂直に8段重ねられており、この「垂直農業型」と呼ばれる方法で敷地面積当たりの生産性を高めているとのこと。

しかし、新工場の最大の特徴は、「ロボットアームを駆使して収穫の自動化を進めた点」です。

実は2年前に稼働していた工場も、AIを用いて最適な生育環境が維持できているかを監視したり、イチゴの育ち具合を自走ロボットに確認させたりするなど、テクノロジーを活用していました。しかし、収穫は人手に頼っていたため、人件費がかかり、結果としてイチゴの価格高騰につながっていたそう。

そこで新工場では安川電機製のロボットアームを設置。Oishii Farmが独自に開発したソフトウェアでアームを制御し、イチゴの自動収穫作業を行なっています。人が通る道を省くことにも成功したため、さらに面積あたりの生産効率を高められたそう。実際に収穫量は従来の20倍に高まり、その生産額は日本の1県分に相当すると述べています。


企業沿革:イチゴを種に農業全体の改革へ

UCバークレーにて留学をしていた古賀 大貴氏は、植物工場が海外でも流行り始めたことに気づき、コンサル時代の経験を生かして在学中にアメリカでOishii Farmを設立。それ以来、順調にその規模を拡大させています。

2016年:「持続可能な形で農業を変革する」ことをミッションに設定し、古賀大貴氏が創業。

2017年:イチゴ植物工場のプロトタイプ農場を建設。イチゴの生産を開始。

2018年:ミシュランの星付きレストランへの販売を開始。

2022年:大規模な植物工場を建設し、高級いちごの量産を開始。ホールフーズでの販売まで。

2023年:高級スーパーチェーンへの販路を拡大し、フルーツトマトの販売を開始。

2024年:200億円を投じた巨大イチゴ工場を本格稼働

2025年:オープンイノベーションセンターの開設予定


起業のきっかけ:海外の学生たちのハングリー精神

創業者の古賀 大貴氏(引用:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000075385.html

人生の転機・スタンフォード大学への留学
古賀 大貴氏は、慶應義塾大学でごく一般的な学生生活を送っていたそうです。しかし、スタンフォード大学への留学は古賀氏に大きなインパクトを与えました。彼は、海外の学生たちのハングリー精神に衝撃を受け、「このままでは世界に通用しない」と危機感を抱いたようです。

コンサルタントからMBAへ
古賀氏はコンサルタントとして、ファーストキャリアを選択しました。その理由の一つに上記の危機感があったそうです。世界で活躍するため、さまざまな業界を見ることができるコンサル業界に魅力を感じたからと言います。
その後、MBA留学を目指し5年間で1500万円を貯蓄し、起業家輩出校であるUCバークレーへ進学しました。

植物工場に注目
コンサルタント時代では植物工場案件を担当。この経験から、彼は日本の技術力とアメリカ市場での可能性に着目しました。アメリカでは水不足や人手不足などの課題があり、日本の植物工場技術が大きなインパクトを与える可能性を感じ取ったそうです。

起業
MBA1年生で起業を決意した彼は、同級生とコンシューマー系ビジネスで起業を試みました。しかし、メンバーの離脱により断念。その後、VCインターンで投資家側の視点を学び、戦略を明確化しました。彼は日本の技術力とアメリカのニーズを活かせる「アメリカでイチゴを生産する」という事業アイデアを形にすべく、起業。

Oishii Farm 誕生
2017年に、アメリカでイチゴの植物工場を運営する「Oishii Farm 」を設立。同社が目指すのは、「世界最大の植物工場」だと、彼は言います。そのファーストステップとして、イチゴをターゲットに事業展開を進めています。


資金調達:累計250億円以上の資金調達を達成

Oishii Farmは2021年2月にシリーズAで約55億円、2024年2月にはシリーズBで約200億円の資金調達を完了しています。ここでは、同社の資金調達についてまとめています。

<2021年2月、シリーズA>

調達額:総額約55億円

目的:イチゴの植物工場の建設の完了と世界進出

主な出資元:スパークスを運営者とする未来創⽣2号ファンドSony Innovation Fund、PKSHA、⽶Social Starts、その他個人投資家

<2024年2月、シリーズB>

調達額:総額約200億円

目的:世界最大級の次世代植物工場の建設、全米展開を加速

主な出資元:日本電信電話株式会社(NTT)、株式会社安川電機、株式会社脱炭素化支援機構、株式会社みずほ銀行、およびMcWin Capital Partners、Bloom8 等の欧米のサステナビリティファンド

参照:Oishii Farm、シリーズBで200億円の資金調達を実施


将来展望:「世界最大の植物工場を作る」というゴールへ

古賀氏によれば、Oishii Farmのゴールは「世界最大の植物工場を作ること」。この目標を達成するため、同社は農業技術と工業技術(自動化・ロボティクス)の研究を強化する予定です。その上で、工場を世界中に拡大し、高品質の果物・野菜を全世界に提供することを目指しています。

現在、農業は担い手不足・天候不順・水不足・土地不足といった多くの問題から、既存の業態ではコストが上昇し続けています。しかし、Oishii Farmの古賀大貴氏は、農産物の生産方法はこの先20~30年で植物工場に置き代わり、長期的には100兆円規模のマーケットになると予想しています。

今後必須となる植物工場を運営するためには、LED・収穫の自動化・空調などの高度な技術が必要です。そこで、「各領域の世界的トップ企業と組んで、オープンイノベーションに取り組む。そして、世界最先端の植物工場のユニットを作り、生産していく」と古賀氏は述べています。

今後、Oishii Farmは、全米展開を加速させ「世界最大の植物工場を作ること」を実現していくでしょう。

参照:テスラが日本車を圧倒したブランド戦略を、“イチゴ”に応用して米で55億調達──Oishii Farmに学ぶ、世界を席巻するプロダクト開発術


市場規模:植物工場の世界市場は2036年に約1610億ドルまで拡大

(出典:https://www.sdki.jp/reports/plant-factory-market/115233

SDKI.jpの「世界の植物工場市場に関する調査レポート:予測2024―2036年」によれば、植物工場の市場規模は2023年に約1185億米ドルと評価されています。そして、この市場は、予測期間中に約7.2%のCAGRで成長し、2036年までに約1610億米ドルに達すると予測されています。

国内植物工場の市場規模は2025年に6700億円規模まで拡大

(出典:https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/consumer-business/articles/ag/agribusiness-botanical-factory1.html

デロイト トーマツ グループの調査によれば、日本の植物工場ビジネスは、2025年には6,700億円の市場規模になると予測されています。これには、野菜の生産だけではなく、生産設備・プラントも含まれており、一大産業が形成されつつあります。


企業概要

  • 会社名:Oishii Farm Corporation
  • 代表者:古賀 大貴
  • 本社所在:Kearny, New Jersey, United States
  • 設立:2016年12月
  • 会社HP:https://www.oishii.com
    • 日本法人
    • 会社名:Oishii Farm株式会社
    • 代表者:古賀 大貴、鈴木 正晴
    • 所在:東京都渋谷区
    • 設立:2023年11月

まとめ

本記事では、ニューヨークを拠点に植物工場で日本のイチゴを生産するOishii Farmについて紹介してきました。

New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。

アイスランドの植物工場でイチゴを生産するアイファーム株式会社についてもまとめているため、関連記事もご覧ください。

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