Boom Supersonic(ブーム・スーパーソニック)社は、超音速旅客機の製造を手がける航空機メーカーです。同社の目標は、速度・安全性・持続可能性を兼ね備えた超音速旅客機を実現することです。一般の人々が利用できる超音速飛行を提供することを目指しています。
本記事では、同社の事業内容や創業の経緯、市場規模などを詳しく掲載しています。
事業内容:マッハ1.7の旅客機を販売
Boom Supersonic社のビジネスモデルは、主に、航空会社への超音速旅客機Overture(下記で説明)の販売です。各Overtureの価格は約2億ドルです。
Boom Supersonic社の取引先は、世界中の商業旅客航空会社および米国政府や米軍です。既にアメリカン航空やユナイテッド航空、日本航空などの航空会社からの注文を受けています。2020年には、米空軍とのパートナーシップも発表しました。
このように、Boom Supersonic社は超音速商用航空機の開発と販売に注力しています。
Overture(オーバーチュア)
Overtureは、全長201フィート(約60メートル)の超音速旅客機です。100%の持続可能な航空燃料(SAF)*で飛行することができ、最大80名の乗客を収容可能です。巡航速度はマッハ1.7で、最大飛行高度は61,000フィート、航続距離は4,300海里です。
Overtureは、燃料効率と騒音の低減に特徴があります。具体的には、空気抵抗を減らすための輪郭設計により、燃費効率の向上しています。また、エンジンの最小化により、超音速騒音の低減にも成功しています。
商業運行に関しては、2029年の商業運行開始を目指しており、既存のゲート、滑走路と互換性があり、すべての主要国際空港で運用が可能です。
*持続可能な航空燃料(SAF)については、以下の記事に詳しく紹介しています。
XB-1
XB-1は、Overtureで使用される技術をテストするためのプロトタイプで、実際のサイズの3分の1スケールの航空機です。このプロトタイプは、飛行データを収集するための「飛行データ収集装置」として機能しています。
Overture Superfactory
Overture Superfactory(オーバーチュア・スーパーファクトリー)は、2024年6月17日に竣工した米国初の超音速旅客機製造工場です。
Boom社の製造担当副社長であるクリス・テイラー氏は、この工場の完成について以下のように述べています。
「建物の完成を見ることは、超音速旅客機の復活(コンコルドの失敗から)に向けた大きな一歩であり、私たちは文字通り道を切り開こうとしているのです。建設が完了した今、私のチームと私は、組立ステーションの設計と実装、位置決めと接合工程の開発、材料の流れの計画など、生産フロアの運用に集中します。」
Overture Superfactoryでは、4つの組立ステーションを使用して年間33機のオーバーチュア機を製造する予定です。さらに、計画されている2つ目の組立ラインでは、年間66機の超音速旅客機を製造する計画があります。
また、同工場内には、ユナイテッド航空やアメリカン航空、日本航空などの世界の主要な航空会社が超音速旅客機を受け取るためのデリバリー・センターも設置されます。
創業の経緯:Amazonから飛行機へ
Boom Supersonic社の創業者でありCEOであるブレイク・ショール氏は、幼少期から航空機に興味を持ち、特に超音速飛行に対する熱意を抱いていました。彼はコンコルド*を見て感動し、超音速飛行の復活を目指すことを決意しました。
ショール氏はAmazonでソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタートさせ、その後、複数の企業で製品開発を担当しました。彼は2008年にプライベートパイロットのライセンスを取得し、2010年にはモバイルeコマースアプリを開発するKima Labs社を共同設立しました。
Kima Labs社の売却に成功した後、2014年に、ショール氏は自らの夢を追求するためにBoom Supersonic社を設立しました。
*コンコルド:英仏合同で開発された超音速旅客機。1976年に初の商業飛行を開始。しかし、2000年に起きた墜落事故により撤退。
資金調達:総額7億ドルの資金を調達
2024年5月現在、Boom Supersonic社は総額7億ドルの資金を調達しています。
2023年10月、Boomはネオム・インベストメント・ファンド(NIF)から非公開の金額を調達しました。NIFはサウジアラビアの持続可能な都市開発プロジェクトNEOMの投資部門であり、この投資後、BoomとNIFは湾岸地域における超音速旅客機の運用について協力する予定です。
これに先立つ2019年1月、Boom Supersonic社は、Emerson Collectiveが主導の、Y Combinator Continuity・Caffeinated Capital・SV Angelが関与する1億ドルのシリーズBラウンドを調達しました。
2020年には、Boom Supersonic社は5000万ドルの資金調達を行い、評価額は10億ドルを超えました。
市場規模:航空会社の世界市場は2026年に7000億ドル以上へ
Boom Supersonic社の調査によると、2020年に3326億ドルと推定された航空会社の世界市場は、2026年には7440億ドルに達すると予測されています。
さらに、ボーイング社による2022年の見通しでは、2041年までに航空会社は4万1000機以上の新型機を必要とし、その市場価値は7兆2000億ドルに達すると予測しています。
ボーイング社はまた、2041年までに、航空輸送の需要を示すRPK(Revenue Passenger Kilometers)が2023年の8.4兆キロから20.1兆キロに増加すると予測しています。
このように、Boom Supersonic社が参入する市場は、今後大きな成長が見込まれており、特にプレミアム旅客層やビジネス・トラベラーに向けたサービスの需要が高まると予想されます。Boom Supersonic社は、Overtureを通じてこの成長する市場に新たな需要を喚起し、超音速飛行の普及を図ろうとしています。2030年までにオーバーチュアが商業運航を開始すれば、約600のルートで利用が可能となり、世界中の都市間の移動時間を大幅に短縮することが期待されています。
将来展望:2030年までのOvertureの初飛行を目指す
Boom Supersonic社は、2030年までにOvertureの初飛行を実現し、商業運航を開始することを目指しています。同社は、超音速飛行を一般の人々が手軽に利用できるものにするため、技術の進化とコスト削減に注力しています。
また、Boom Supersonic社は、将来的にさらに高速な旅客機の開発や、商業以外の用途への超音速技術の応用を検討しています。これにより、地球規模での人々の移動をより迅速かつ効率的にすることを目指しています。
会社概要
会社名:Boom Supersonic
設立:2014年
拠点:アメリカ合衆国 コロラド州 デンバー
事業内容 超音速航空機の開発・製造
創業者:Blake Scholl (CEO)