最終更新日 24/11/28
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元Googleの研究者が開発した未知の物理現象を予測するAI「Newton」

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(引用:Archetype AI公式HP)

元Googleの研究者たちが立ち上げたAIチーム「Archetype AI」は、「A Phenomenological AI Foundation Model for Physical Signals」という論文を発表し、あらゆる物理現象を理解し予測できるAIモデル「Newton」を開発したことを報告しました。

このモデルは、力学振動や熱力学実験などの基本的な物理現象から、都市の電力需要や気象データなどの複雑なシステムに至るまで、幅広い現象を予測できる点で注目されています。

従来の物理現象解析AIが抱えていた課題

従来の物理現象解析AIは、特定の用途や分野に特化して開発されることが一般的でした。そのため、たとえば流体力学用のAIモデルは流体の動きを高精度で解析できますが、異なる分野のデータには対応できません。また、新しい分野に応用する際には、大量のデータと時間をかけて、モデルを再訓練する必要がありました。

このような課題により、従来のAIモデルでは多種多様な物理現象を1つの仕組みで解析することが困難でした。これに対し、「Newton」はまったく新しいアプローチで、この制約を打破します。

「Newton」の革新性:現象論的アプローチ

「Newton」の学習イメージ(引用:「A Phenomenological AI Foundation Model for Physical Signals」)

「Newton」の最大の特徴は、物理現象に関する事前の知識を組み込まず、純粋にデータそのものから学習する「現象論的アプローチ」を採用している点です。

大量のデータを活用した訓練により汎化性能を獲得

Archetype AIの研究チームは、電流や流体の流れ、光センサーなど、多種多様なセンサーで計測した約5億9000万個のデータをモデルの訓練に使用しました。この膨大なデータを活用することで、「Newton」は1つの物理現象に特化しない汎用的なAIモデルとして進化しました。

最大の特徴である「統一的なデータ表現」

このモデルの最大の特徴は、物理現象をセンサーデータの時系列として捉え、それを統一的な表現形式に変換する仕組みです。具体的には、さまざまなセンサーデータを共通の「時系列データ」として扱い、それをトランスフォーマーベースのニューラルネットワークで処理します。

この仕組みにより、異なる物理現象を統一的に解析できるようになりました。たとえば、流体の動きと電気的な挙動といった異なるデータでも、同じ仕組みで解析が可能です。

実験で確認された「Newton」の性能

Archetype AIの研究チームは「Newton」の性能を検証するため、単純な物理系と複雑な現実世界のデータを用いて実験を行いました。

基本的な物理系での検証

振動子システムの実験図(引用:「A Phenomenological AI Foundation Model for Physical Signals」)

まず、Archetype AIの研究チームは標準的なベンチマークとして用いられる以下のシステムで、モデルのゼロショット性能をテストしました。

  • バネに質量を取り付けた振動子システム:手動で振動を与えたシステムの運動を予測する実験で、非線形運動から規則的な運動まで高い精度で予測可能であることを確認。
  • 温度差から電流を生み出す熱電効果システム:温度差から発生する電流を解析する実験で、未学習の物理現象に対しても正確な予測を達成。

複雑な現実世界のデータ解析

現実世界のプロセスを予測するモデルの例(左上: 電力消費量の予測)(引用:「A Phenomenological AI Foundation Model for Physical Signals」)

次に、都市の気象データや国レベルの電力消費、変圧器の油温といった実世界のデータを用いて、「Newton」の性能を評価しました。その結果、「Newton」は訓練データに含まれていない物理現象であっても、その振る舞いを高い精度で予測できることが判明。

特に注目すべきは、このモデルが特定の現象のデータのみで訓練した専用モデルを上回る性能を示したことです。たとえば、変圧器の油温予測では、変圧器専用のデータで訓練したモデルを超える精度を達成しました。

「Newton」の実用性と未来への期待

「Newton」が示したのは、特定用途に限らず幅広い応用が可能なAIモデルの可能性です。このモデルには、以下のような実用的メリットがあります。

  1. 汎用性の高さ
    • 個別のAIモデルを新たに設計する必要がなく、異なる分野でも対応可能。トレーニングデータや計算リソースの削減につながります。
  2. 自律的な適応
    • 観測データから直接学習することで、新しい環境や条件に迅速に適応。これにより、人間の介入を最小限に抑えた自律システムの構築が可能です。
  3. 科学的発見の加速
    • データ収集が困難な分野においても、物理的挙動の学習が可能。実験研究や新しい物理法則の発見を加速させる潜在能力を持っています。

企業概要

  • 企業名:Archetype AI
  • 代表者:CEO Ivan Poupyrev
  • 設立:2023年
  • 所在地: US 94304 California Palo Alto 3340 Hillview Ave
  • 公式HP:https://www.archetypeai.io/

まとめと展望

「Newton」は、物理現象の理解と予測において、これまでの常識を覆す存在です。このモデルが広く普及すれば、科学研究や産業、環境予測、インフラ管理など、多岐にわたる分野での活用が期待されます。

まだ課題は残されていますが、「Newton」はAI技術の新たな可能性を切り開く大きな一歩であり、未来を担うモデルとしての期待が高まります。この革新的なAIモデルがもたらす進化に今後も期待です。

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