今回紹介するスタートアップは、夢の核融合発電に向けて世界を牽引する「京都フュージョニアリング株式会社」(以下、京都フュージョニアリング)です。
同社は、2019年に京都大学をはじめとする、日本国内での長年の核融合研究の成果をもとに設立されました。核融合発電の実現に必要不可欠な機材や技術の研究・開発を行い、プラズマ加熱装置や高性能熱交換器、水素同位体移送ポンプなど、最先端の核融合工学分野で世界をリードしています。
また、英国原子力公社をはじめ、国内外の核融合研究開発機関や企業を顧客として持つなど、高い技術力と信頼性を有している点が大きな特徴です。実際に、Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング2025」で第5位に選ばれ、シリーズCまでの資金調達総額が148.1億円に達するなど、同社の事業規模や将来性には大きな期待が寄せられています。
この記事では、そんな京都フュージョニアリングが手掛ける事業内容や独自の技術力、その特徴について詳しく解説していきます。核融合発電という「夢のエネルギー」を現実のものとする同社の取り組みを、ぜひご覧ください。
事業内容:核融合発電に必要な機材の研究開発
京都フュージョニアリングは、核融合発電を実現するために欠かせない技術や機材の研究・開発を行う企業です。同社は、プラズマ加熱に必要な「ジャイロトロンシステム」や、燃料循環を担う「フュージョン燃料サイクルシステム」、さらにエネルギーを効率よく取り出す「フュージョン熱サイクルシステム」など、核融合発電に必要な多様な技術を手掛けています。
京都フュージョニアリングの強みは、こうした核融合発電に必要な機械の開発はもちろん、全体設計を行うプラントエンジニアリングにも高い技術力を有している点です。核融合研究を長年続ける研究者・技術者が多数在籍し、合計で約800年の経験を有するエキスパートたちによる確かな経験と知識が、京都フュージョニアリングの技術力の根幹にあります。
製品①:ジャイロトロンシステム(Plasma Heating System)
京都フュージョニアリングが開発する「ジャイロトロンシステム」は、核融合炉内でプラズマ状態を作り出すために、プラズマを高温に加熱する装置です。核融合を実現するには数千万度という極めて高温のプラズマが必要であり、このジャイロトロンシステムが重要な役割を果たします。
京都フュージョニアリングは、国際的な核融合研究プロジェクト「ITER」や日本国内の研究機関の成果を基盤に、従来の技術を改良。具体的には、より高い周波数での動作や長時間出力を実現することで、ジャイロトロンの性能を向上させ、産業利用を視野に入れた開発を行っています。同社は製品の品質管理や社会実装のための取り組みも積極的に推進しており、核融合技術を実社会に導入するためのプロセスを担っています。
製品②:フュージョン燃料サイクルシステム(Fusion Fuel Cycle System)
核融合炉を安定的に稼働させるためには、燃料であるトリチウムや水素同位体ガスを循環させる技術が欠かせません。この燃料循環技術として、京都フュージョニアリングは「フュージョン燃料サイクルシステム」を開発しています。同社は京都大学などの研究成果をもとに、炉心から排気された燃料ガスを回収・分離・再利用するための高度な技術を研究中です。
また、世界有数の水素同位体管理技術を持つカナダ原子力研究所(CNL)と連携し、フュージョン燃料サイクルの高度化を目指した「UNITY-2」プロジェクトを進行しています。このプロジェクトを通じ、核融合炉の安定運転を支える技術のさらなる発展を目指しています。
製品③:フュージョン熱サイクルシステム(Fusion Thermal Cycle System)
京都フュージョニアリングが開発する「フュージョン熱サイクルシステム」は、核融合炉で生成される膨大な熱エネルギーを効率的に取り出し、発電に利用するためのシステムです。核融合炉では、高温や高エネルギーの中性子、高磁場といった過酷な環境が存在するため、特別な材料や設計が必要です。そこで、京都フュージョニアリングは独自の材料開発とプラント設計を組み合わせた革新的な技術を提供しています。
同社は京都リサーチセンターにおいて、フュージョンエネルギーを利用した発電試験プラント「UNITY-1」の建設を進めています。この施設は世界初の試みであり、核融合エネルギーを実際の発電に転用する技術を実証する重要な役割を果たすでしょう。
Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング2025」で5位に選出
京都フュージョニアリングは、世界的に注目を集める核融合発電の分野でユニークな地位を築き、その実績や将来性が高く評価されています。その結果、Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング2025」では、第5位に選ばれました。
同社へのインタビュー記事では、創業からの歩みや今後の戦略が詳しく語られています。
創業当初から、共同創業者である長尾昂氏が資金調達や組織運営を担当し、小西哲之氏が技術開発を主導する形で、堅実な事業基盤を構築してきました。2023年10月には、新たな経営体制に移行し、長尾氏は取締役会長に、小西氏は代表取締役CEOに就任。それぞれの強みを活かしながら、「自律的な組織」の実現を目指し、社内人材の育成や権限委譲を進めることで、持続的な成長基盤を築いてきました。
さらに、同社は「FAST」プロジェクトを推進し、日本初の核融合炉建設を目指しています。このプロジェクトでは、2030年代までにプラズマ燃焼から発電に至るプラントの建設を目標としています。核融合反応自体を目指すプロジェクトは他国でも行われていますが、京都フュージョニアリングは「発電」までを視野に入れた世界初の試みです。この挑戦には、東京大学の教授をはじめとする国内の著名な研究者たちとの協力があり、核融合発電の実用化に向けた重要な一歩として注目されています。
また、核融合産業全体の発展を視野に入れた取り組みとして、2024年には業界団体「一般社団法人フュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)」を設立。同協議会の会長を務める小西氏のもと、日本全体で核融合関連エコシステムの構築を進めています。
核融合発電は「夢のエネルギー」とも称される一方で、技術的課題に加え、国際政治や安全保障といった複雑な問題も抱えています。しかし、小西氏はその困難を楽しみながら乗り越え、核融合の未来に向けた挑戦を続けています。
資金調達:シリーズCラウンド2nd closeにて10.7億円を調達
京都フュージョニアリングは、シリーズCラウンド(エクステンション)において、2024年4月の資金調達(1st close)に続き、10.7億円を新たに調達したことを2024年7月23日に発表しました。
この2nd closeでは、アメリカのベンチャーキャピタルIn-Q-Tel(インキュテル: IQT)、ニチコン株式会社、丸紅株式会社を含む4社が出資。この調達によりシリーズCラウンドの累計調達額は131.3億円、京都フュージョニアリングの累計調達額は148.1億円に達しました。
事業の進捗と今後の展望
京都フュージョニアリングは、カナダ原子力研究所(CNL)と新会社「Fusion Fuel Cycle Inc.」を設立。業界のエキスパートであるChristian Day氏を迎えることで、「UNITY-2」を軸にしたフュージョン燃料サイクル事業のさらなる展開を進めています。
また、京都リサーチセンターに建設中の発電試験プラント「UNITY-1」は、最初の大型設備の設置が完了。2025年夏には、世界初となる模擬環境下での発電実証が予定されており、液体金属を用いた高温熱運搬の実証実験も開始しています。
さらに、核融合プラズマ加熱の分野で重要な役割を果たすジャイロトロンシステムについて、産学連携を通じて、その高周波数や複数周波数の発振を検証する技術開発に取り組んでいます。
今後はこれらの事業を、新たに設立した3つ目の海外拠点Kyoto Fusioneering Europe Gmb(KFEU)にて推進していく計画です。そして、今回調達した資金と投資家の持つ知見を活用して、技術開発を一層加速させ、核融合エネルギーの早期実現を目指すとしています。
シリーズCラウンドの資金調達履歴
京都フュージョニアリングのシリーズCラウンドでは、以下の資金調達が行われています。
- 2023年5月17日:シリーズCラウンド(初回)
- 調達金額: 105億円
- 出資者: JICベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社、INPEX株式会社、SMBCベンチャーキャピタル株式会社など多数
- 資金用途: 研究開発投資、グローバル人材採用、大型案件受注に伴う運転資金確保
- 2024年4月11日:シリーズCラウンド 1st close
- 調達金額: 15.6億円
- 出資者: 三井不動産、京銀輝く未来応援ファンド、株式会社フジクラなど
- 資金用途: 技術開発加速、グローバル展開促進、人材採用
- 2024年7月23日:シリーズCラウンド 2nd close(今回の資金調達)
- 調達金額: 10.7億円
- 出資者: In-Q-Tel、ニチコン株式会社、丸紅株式会社、その他1社(非公開)
- 資金用途: 技術開発推進、グローバル事業強化、大型案件対応
市場規模:核融合発電の世界市場は2040年に118兆円まで拡大
核融合発電は、地球規模のエネルギー課題を解決する次世代の発電技術として注目されています。デロイト トーマツ コンサルティングによると、その市場規模は急成長が見込まれており、2030年には約60兆円、2040年には約118兆円に達する予測です(1ドル=140円換算)。
これは、再生可能エネルギーを補完する安定的なエネルギー源として、核融合発電が求められているからだと考えられます。また、市場の拡大を支える要因として、持続可能な社会の実現に向けた国際的な脱炭素化の流れも重要です。加えて、エネルギー価格の安定性や、既存の石油・天然ガス資源に依存しない特性も、核融合発電の長期的な成長に寄与しています。
核融合発電事業に対する世界や日本の動向
核融合発電は、アメリカやヨーロッパを中心に技術開発と資金調達が進められており、特にアメリカはその研究開発をリードしています。累計で54.7億ドル(約7660億円)もの資金が投入され、米国のスタートアップ「Commonwealth Fusion Systems」が2025年までに核融合炉の実用化を目指すなど、技術革新が加速しています。
一方、イギリスやドイツも政府主導で核融合開発に積極的に投資を行い、それぞれ19億ドル、17億ドルを投入。これらの国々では、官民連携による研究開発が進んでおり、国際核融合エネルギー機構(ITER)といった大規模な国際プロジェクトを通じて、各国が協力し技術の進展を後押ししています。
日本では、核融合炉の「熱回収技術」に強みを持ち、特に核融合反応で得たエネルギーを効率的に電力に変換する技術開発が進行中です。注目すべきは、京都フュージョニアリングが主導する試験炉「UNITY」であり、2024年度末の稼働を目指し、国内外で注目を集めています。また、2024年3月には「一般社団法人フュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)」が設立され、官民連携のもと産業化に向けた技術標準化や政策提言が行われました。
ただし、政府による資金投入額は約3億ドルにとどまっており、欧米諸国と比べると少額である点が課題です。今後、日本が技術的な優位性を維持しつつ、国際的な投資をさらに呼び込むための戦略が求められます。
今後の核融合発電事業について
核融合発電の実用化に向けた取り組みは世界全体で加速しており、次のスケジュールで進んでいます。
- 2030年代: 核融合反応を安定的に発生させる「原型炉」を実現
- 2040年代: 発電の商業実証段階に入り、30~100万kW規模の安定電力供給が可能に
- 2050年頃: 技術の実用化準備を完了
こうした技術革新によって、核融合発電はCO2排出ゼロという特徴を活かし、カーボンニュートラルの実現に大きく貢献するとされています。また、気候や時間帯に左右される再生可能エネルギーを補完することで、エネルギー安全保障の強化にもつながるでしょう。さらに、その影響はエネルギー業界を超え、医療分野(MRIや新素材技術の進展)や、新規産業の創出にも波及するとも考えられています。
一方、技術的・経済的な課題が多く残っているのが現状です。たとえば、核融合反応を安定的に維持するためには、1億度を超える高温プラズマの制御が求められます。また、「兆円単位に及ぶ製造コストをどのように削減するか」も大きな課題といえるでしょう。加えて、核融合発電のメリットや課題を一般市民に広く理解してもらうためには、社会的合意形成(Public Acceptance)が不可欠です。
核融合発電は、その革新性と可能性の点から、世界中の国家や企業が協力して取り組むべきグローバルな挑戦です。日本はその一翼を担い、特に技術的優位性を活かしながら国際連携を強化し、核融合発電の実現に貢献することが求められるでしょう。
市場トレンド:脱炭素社会の実現に向けて注目される核融合発電
核融合発電は、脱炭素社会の実現に向けた新エネルギーとして注目を集めています。その始まりは、核融合反応によってエネルギーを生み出している太陽をもとに考案された、「地上に太陽をつくる」という挑戦でした。日本では、湯川秀樹博士が核融合研究の重要性を提唱し、国立研究機関主導のもと開発が進められてきました。
そして、1985年、米ソ首脳会談を契機に、国際熱核融合実験炉(ITER)プロジェクトが始動します。ITERは2025年の運転開始を目指してプロジェクトが進められましたが、国家間の調整を必要とし、失敗が許されない巨大プロジェクトであるため、設計が2000年過ぎに完全に確定しました。そのため、2000年以降の技術革新を取り入れることが難しくなりました。
この状況を受け、2018年頃から世界中で民間企業が新たな核融合炉の開発に乗り出し、「一刻も早く、人類に核融合エネルギーを提供する」という共通の目標の下で活動が開始されるようになりました。現在、世界で50社以上の企業が核融合開発に取り組んでいます。
日本でも、核融合エネルギーに関する政府の方針や国際連携が進み、2024年3月にはフュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)が設立されました。官民一体となった取り組みにより、核融合発電の実用化に向けた動きが加速しています。日本は、核融合発電に必要な全ての技術を国内企業のみで有する数少ない国とされており、この分野のパイオニアとして活躍することが期待されています。
創業者プロフィール:小西 哲之・長尾 昂
小西 哲之氏は、2019年に京都フュージョニアリングを共同創業し、設立当初からChief Fusioneerとして技術、企画、戦略を担当しました。2023年10月からはCEOに就任しています。核融合工学や核融合炉設計、トリチウム工学、さらに国際的な核融合研究プロジェクトであるITERプロジェクトに携わるなど、40年にわたり核融合エネルギーの研究と実践に取り組んできました。
また、京都大学エネルギー理工学研究所の教授として、人類が直面する持続可能性の課題解決にも注力しています。これまでに、2008年に京都大学生存基盤科学研究ユニット長、2009年にITERテストブランケット計画委員会議長、さらに2012年には同委員会の日本代表委員を歴任。東京大学で工学博士号を取得しており、理論と実務の両面で世界的な実績を持つ専門家です。
長尾 昂氏は、2019年に京都フュージョニアリングを創業し、初代代表取締役社長として企業の成長を牽引しました。同社では、ラボスケールの研究開発から事業を立ち上げ、戦略立案や資金調達、人材採用などの多岐にわたる分野でリーダーシップを発揮しました。2023年10月からは代表取締役会長に就任し、現在は取締役会長として経営を支えています。
さらに、京都フュージョニアリングで得た知見を活かし、スタートアップの支援やアントレプレナーシップ教育など、新たな分野にも活動の幅を広げています。同社設立以前には、Arthur D. Little Japanで新規事業に関する戦略コンサルティングを担当し、エネルギースタートアップ「エナリス」では、マザーズ上場や資本業務提携、研究開発などを主導しました。京都大学で機械理工学の修士号を取得しており、ビジネスと技術の両面で多彩な経験を持つリーダーです。
企業概要
- 企業名:京都フュージョニアリング株式会社
- 代表者:小西 哲之
- 設立:2019年10月1日
- 所在地: 〒100-0004 東京都千代田区大手町一丁目6番1号 大手町ビル5階
- 公式HP:https://kyotofusioneering.com/
まとめ
本記事では、核融合発電で日本や世界をけん引する京都フュージョニアリング株式会社について紹介しました。
New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。
京都フュージョニアリング株式会社のように、国内外の面白い企業についてもまとめているため、関連記事もご覧ください。