糖尿病は現在も深刻な健康問題の1つであり、WHOが2020年に発表した「2000〜2019年の世界の死因トップ10」では9位にランクインしています。また、糖尿病を患う人は増加し続けており、2021年の世界の糖尿病患者数は5億3700万人に達しました。
糖尿病の発症や重症化を予防するためには、日常的に血糖値をモニタリングすることが重要です。しかし、現在の血糖モニタリングの利用は重症患者に限られており、その普及には課題が残されています。その理由として、血糖モニタリングデバイスが「痛みを伴う」「価格が高い」「操作が難しい」という点が挙げられるほか、多くの糖尿病患者には保険が適用されないことも影響しています。
このため、糖尿病の予防や重症化を防ぐためには、簡単で、低コストかつ負担が少ない血糖モニタリング技術の開発が必要です。
この問題に挑んでいるのが、2015年3月に創業された東京大学発の医工連携スタートアップ「株式会社Provigate」(以下、Provigate)です。Provigateは、糖尿病患者や予備群の方々の行動変容をサポートすることを目的として、過去数日から1週間程度の血糖変動を敏感に反映する「グリコアルブミン(GA)」に注目し、バイオセンサーや郵送検査、アプリの開発・提供に取り組んでいます。
2024年10月に20億円の資金調達を成功させるなど、今注目を集めるProvigateについて、その事業内容等を紹介していきます。
事業内容:グリコアルブミンを活用した血糖管理サービスを提供
Provigateは、タンパク質の一種である「グリコアルブミン(GA)」を活用して、糖尿病患者やその予備軍に向けた血糖管理支援サービスを提供しています。具体的には、以下の3つの事業を展開中です。
- 在宅用小型検査機器の開発:グリコアルブミンを活用して、自宅で血糖値を測定できる小型の検査機器を開発し、ユーザーが手軽に血糖管理できる環境を整えています。
- 郵送検査サービス「glucoreview」の提供:自宅で採取した血液サンプルを郵送することで、週ごとに血糖値を可視化できるサービスです。利用者は定期的に測定結果を受け取ることで、自身の血糖コントロール状況を確認できます。
- アプリおよびモニタリングダッシュボードの提供:「glucoreview」で測定したデータを確認できるユーザー向けアプリや、医療従事者が利用者の血糖値をモニタリングできる専用ダッシュボードを提供しています。
Provigateが提供する、この在宅型週次血糖モニタリングサービスでは、1週間に一度、少量の血液を採取するだけで、その1週間の平均血糖を数値で確認できます。
身体をほとんど傷つけず、1回数百円で検査できるため、身体的な負担・金銭的なコストが低く、ユーザーは気軽に血糖管理を続けられます。
さらに、1週間ごとに血糖コントロールの成果を振り返ることができ、改善に向けたサイクルを自然に回せるため、モチベーション維持にも効果的です。
また、医療系の資格を持つサポーターとのチャット相談や、カレンダーでの振り返りなど、多くの機能が搭載されており、糖尿病患者に寄り添ったサービスとなっています。
グリコアルブミン(GA)を活用する理由:週次で血糖値を正確に測定可能
Provigateがグリコアルブミン(GA)を血糖管理に活用する理由は、GAが週単位での血糖コントロールに適しているからです。
現在、血糖値の測定に広く使われている指標はHbA1c(糖化ヘモグロビン)ですが、これは主に1〜3カ月間の平均血糖値を示します。そのため、長期間の血糖コントロール状況を把握するのには適しています。しかし、日々の改善努力の成果が反映されるまでに時間がかかるため、モチベーションの維持が難しいです。
そこで、ProvigateはGAの価値を再定義。GAは数日~1週間の血糖変動にレスポンス良く応答するため、「週次平均血糖指標としての価値」があると考え、GAをHbA1cの代替診断指標ではなく、家庭での「行動変容指標」に用いようと着想しました。
GAであれば、週に1度の在宅測定で血糖変動をモニタリングし、過去1週間の生活習慣を振り返ることができます。そのため、一般的な血糖計(SMBG)のように頻繁な採血をしたり、連続血糖測定(CGM)のように体内にセンサーを装着する必要もありません。
Provigateは、このようにGAの特性を活かし、低侵襲・低コストかつ簡便な血糖管理の手段として、患者の生活の負担を軽減するための技術開発を進めています。
資金調達:2024年10月に総額20億円を調達
Provigateは、2024年10月28日に総額20億円の資金調達を実施したと発表しました。
この20億円のうち、12億円はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が実施する「ディープテック・スタートアップ支援事業(DMPフェーズ)」からの助成金です。
さらに、残りの8.3億円は、既存の株主であるアイングループ、SPARX、豊田合成、科学技術振興機構に加え、新たな投資家であるシスメックスや、次世代地域ヘルスケア産業活性化投資事業有限責任組合、個人投資家からの出資によって調達されました。
今回の資金調達により、Provigateは「GA測定用小型検査機器」の量産開発や臨床研究をさらに加速させる計画です。また、自己資金を活用し、パイロット事業として郵送検査による週次GA測定サービス「glucoreview」の提供を拡大していくとしています。
市場規模:糖尿病市場は2022年に6810億円と予測
矢野経済研究所によると、2022年度の糖尿病市場規模は6810億円と予想されています。この調査の糖尿病市場には、血糖自己測定器や関連製品、および糖尿病治療薬の2つの分野が含まれます。
詳しい内訳を見ると、血糖自己測定器市場は、血糖自己測定器本体の価格競争の激化や、インスリン療法の普及状況などの影響で、近年横ばいもしくは縮小傾向が続いているそうです。一方で、糖尿病治療薬市場では、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬などの新しい血糖降下薬が成長しており、拡大傾向にあります。
将来の見通しとして、矢野経済研究所は、糖尿病市場(2つの分野合計)は2025年度に7000億円を超えるものの、2026年度には6923億円にとどまると予測しています。血糖自己測定器市場は今後もわずかに減少し、糖尿病治療薬市場は薬価改定などの影響を受けながらも微増で推移する見込みです。SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬の需要は引き続き拡大しますが、特許の切れや薬価改定の影響により、2026年度には減少する可能性があるとしています。
企業概要
- 企業名:株式会社Provigate(Provigate, Inc.)
- 代表者:代表取締役CEO 関水 康伸
- 設立:2015年3月6日
- 所在地: 〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1 東京大学アントレプレナープラザ302号室
- 公式HP:https://provigate.com/
まとめ
本記事では、タンパク質の一種である「グリコアルブミン(GA)」を活用して、糖尿病患者やその予備軍に向けた血糖管理支援サービスを提供する株式会社Provigateについて紹介しました。
New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。
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