生成AIやIoTなど、デジタルの力を活用して、さまざまな事業・業務が効率化されています。そんな中、徐々に注目を集めている技術の1つが「エッジAI」です。端末機器(エッジ)にAIを搭載することで、モノ自体が自分で判断・動作できるようにします。
この画期的な技術で世界をリードしているのが、台湾発のスタートアップ「Kneron, Inc.」(以下、Kneron)です。同社はエッジAI SoCという半導体や、それを用いたハードウェアを開発しており、世界中の企業と積極的に取引を行なっています。
最近では、Bloombergが「KneronがプレIPOラウンドで3億ドルを調達する可能性がある」と報道。台湾初のユニコーン企業誕生に向けて、国内外で期待が高まっています。
本記事では、注目を集めるKneronについて、その事業内容や資金調達の動向をわかりやすく解説します。
事業内容:モノにAI機能を直接搭載できる半導体を生産
KneronはエッジAI SoC専用プロセッサーの開発を主力とし、エッジ向けのAIソリューションにおいて世界をリードしています。
エッジAI SoCとは、簡単に言うと、AI機能をモノ(デバイス)に直接組み込むことができる半導体のことです。カメラや自動車などの端末機器(エッジ)にAIを搭載することで、モノがインターネットを経由することなく、その場でデータを処理・動作できるようにします。
また、SoCとは「System on Chip」の略で、さまざまな機能を1つの半導体に集約したものです。
Kneronは、このSoCという半導体にエッジAIの技術を詰め込んだプロセッサー(ハードウェア)を開発しており、カメラや車両、セキュリティ機器など幅広い分野でのAI活用を目指しています。同社の目標は、遅延が少なく、安全でリアルタイムなAIアプリケーションを世の中に広めることです。
Kneronの強みは、独自開発の「NPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)」と呼ばれるチップ技術にあります。NPUはAI専用に設計されたプロセッサーで、AIの処理を素早く行えるのが特徴です。
同社のチップは、低消費電力かつ高性能であり、レゴブロックのように組み合わせて利用することができます。そのため、異なる用途に合わせた柔軟な対応が可能であり、監視カメラや自動車など、さまざまなモノにAI機能を実装することが可能です。
エッジAIとは:端末機器にAIを直接搭載して即座の判断を可能にする技術
エッジAI(Edge AI)とは、ネットワークでつながった端末機器(エッジデバイス)にAIを直接搭載することで、その場でのデータ処理を可能にする技術です。ネットワーク接続を必ずしも必要とせず、端末自体がリアルタイムで解析や判断を行えるため、特に即時対応が求められる分野で大きな強みを発揮します。たとえば、自動運転車による障害物検知や衝突回避、店舗での顧客行動分析などに利用されています。
エッジAIの魅力は、端末自身でデータを即時処理できる点です。これにより、ネットワークの遅延を抑え、迅速な対応が可能となります。また、常時インターネットに接続されている必要がないため、作物監視や災害時の緊急対応といったインターネット接続が難しい環境でも活躍できます。
また、クラウドAIと比べ、エッジAIは通信コストを抑えることが可能です。加えて、データを外部に送信しないため、プライバシーの保護やセキュリティの向上も実現できます。これは、医療現場や金融システムなど、セキュリティが特に重視される分野にとって大きなメリットです。
一方で、エッジAIにはいくつかの課題もあります。端末に搭載できるAIの機能には限界があり、大規模なデータの処理にはクラウドAIが優位です。また、システムの設計・運用が複雑になるため、導入や保守のコストがかさむ可能性があります。
資金調達:プレIPOで3億ドルを調達予定と報道
Bloombergの報道によると、Kneronは現在、プレIPOでの3億ドルの資金調達に向けて投資家と協議を進めています。この調達が成功すれば、同社の企業価値は10億ドルに達し、台湾初のユニコーン企業が誕生するでしょう。
現時点では、具体的な投資家の名前や最終的な調達額は明らかにされていませんが、Kneronはバイオメディカルや製薬産業を除けば、単一ラウンドで最大規模の調達額に到達する可能性があります。
すでに台湾では、Gogoro(睿能)、Appier(沛星互動)が企業価値10億ドル超で上場を果たしており、ProLogium(輝能)も近く上場すると噂されています。
Bloombergによれば、今回の資金調達はさらなる製品開発や市場拡大のために活用される予定です。その一環として、同社はサウジアラビアに地域オフィスと研究開発ラボを設立する計画を掲げています。
2025年にSPACによるNASDAQ上場を計画
2024年10月21日に発表された米国証券取引委員会の文書によると、KneronはSPAC(特別目的買収会社)*であるSpark I Acquisition Corpと基本合意書を締結し、2025年のNASDAQ上場を計画しています。現時点で最終的な契約には至っていませんが、交渉は引き続き進行中です。
Kneronはこれまでに2億1200万ドルの資金を調達しており、その投資家にはQualcomm、Sequoia Capital、Foxconn(鴻海/富士康)、Lite-On(光宝)、Delta Group(台達)、さらに香港の著名投資家である李嘉誠氏が率いるHorizons Ventures(維港投資)が名を連ねています。
*SPAC(特別目的買収会社):自社事業を持たないペーパーカンパニーとして設立し、株式を公開していない企業を買収することによって上場する法人のこと。IPO(新規上場株式)と比べて、短期間かつ低コストで上場できるというメリットがあります。
エッジコンピューティング市場における成長と課題
AI技術の普及により、エッジコンピューティング市場の需要は急速に高まっています。Kneronが展開するエッジAIチップ市場は、2032年までにクラウドAI市場の3倍以上の規模になると予測され、今後も成長が期待されています。
しかし、エッジAIチップ市場は競合も多く、さらにサウジアラビアなど新興市場でのビジネス展開には効率的な管理が求められます。Kneronが急成長するエッジAI分野でリーダーシップを確立できるか、その成長動向に注目です。
市場規模:エッジAIの世界市場は2030年に732億円へ
市場調査会社グローバルインフォメーションによると、エッジAI市場は2023年に241億9000万ドル、2024年には281億3000万ドルを記録しました。年間平均成長率(CAGR)17.13%で成長を続け、2030年には732億1000万ドルに達する見込みです。
この成長を後押しする要因として、処理ハードウェア技術の進歩や、5Gインフラへの投資の増加、分散型ネットワークへのシフトが挙げられます。一方で、技術統合の複雑さ、導入コストの高さ、エッジAIソリューション開発におけるスキル不足といった課題も存在しています。
企業概要
- 企業名:Kneron, Inc.(耐能智慧股份有限公司)
- 代表者:創業者/CEO Albert Liu
- 設立:2015年
- 本社所在地:10052 Mesa Ridge Ct STE 202, San Diego, CA 92121 USA
- 公式HP:https://www.kneron.com/ja/
まとめ
本記事では、モノにAIを搭載する”エッジAI”技術で世界をリードするKneron, Inc.について紹介しました。
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