金属業界は有史以来、人類の発展を根本から支える基盤産業です。しかし、現在は脱炭素化の実現・循環型サプライチェーンへの転換という2つの大きな課題に直面しています。
実際に、金属産業由来のCO2が世界の排出量の約10%を占めており、その削減が急務となっているほか、近年の地政学的リスクの高まりから、従来のグローバルサプライチェーンからの転換が求められています。
このような状況で注目を集めるのが、金属業界の脱炭素化を推進するディープテックスタートアップ「SUN METALON Inc.」(以下、SUN METALON)です。同社は独自の金属加熱技術を活用して、金属の製造・リサイクルにおけるCO2排出量を大幅に削減し、効率的な循環型サプライチェーンを構築しています。
2024年10月にはシリーズAで31億円の資金調達を成功させるなど、投資家からの注目を集めるSUN METALONについて紹介していきます。
事業内容:低コストかつ低CO2で金属を精製・加工
SUN METALONは、独自の金属加熱技術を活用して、低コストかつ低CO2での金属精製・加工を行なっており、効率的な循環型サプライチェーンを構築しています。具体的には、金属廃棄物から不純物を除去し、高純度素材として再利用する金属リサイクル技術を中核事業に据え、その他2つの事業を展開中です。
- 金属リサイクル事業:あらゆる金属粉末スクラップを高価値な資源へとリサイクル
- 金属3Dプリンター事業:超高速で金属部品を作れる金属3Dプリンターを生産
- 金属の還元事業:より効率的に金属鉱石から金属を抽出
SUN METALONの最大の特徴は、やはりコア技術である「独自の金属加熱技術」。金属を効率的に加熱することができるため、従来より85%もエネルギーを抑えて、微小な切削屑やスクラップといった不純物を分離・除去することが可能です。そのため、同社独自の金属加熱技術を活用することで、金属生産にかかるコストやCO2排出を抑えることができます。
2021年の創業以来、アメリカと日本を拠点に事業を展開しており、2024年春には米国にあるSUN METALONの自社プラントを拡張。米国パートナーとの協業や、金属の製造・リサイクル拠点として本格稼働を開始しています。さらに、独自開発の金属加熱技術に関する特許を国内外で取得・出願しているとのこと。
SUN METALONの主要事業「金属リサイクル事業」
SUN METALONは2024年時点で、金属粉末スクラップから不純物を取り除く金属リサイクル事業を中核事業として展開しています。
同社は独自の金属加熱技術を応用して、廃棄された金属から不純物を効果的に除去し、これを高純度の金属素材として再利用するプロセスを開発しました。このプロセスは、従来の方法に比べてコストが抑えられ、環境への影響も軽減できるのが大きな特徴です。
さらに、金属加工の際に発生する廃金属を再利用可能な資源として再生することで、循環型のサプライチェーンを実現しています。こうした技術と取り組みが評価され、同社は住友商事グローバルメタルズとの業務提携を発表しました。今後、住友商事グローバルメタルズの広範な顧客基盤を活用し、SUN METALONの技術を早期に社会へ普及させるため、強固な販売体制を構築していく計画です。
SUN METALONのもう1つの注目事業「金属3Dプリンター事業」
SUN METALONは、従来の金属3Dプリンティング技術に比べて500倍の効率を誇り、90%以上のコスト削減を可能にする新しい金属3Dプリンターを開発しています。
これまで樹脂を使った3Dプリンターはある程度普及していましたが、金属3Dプリンターは非常に高価であるため、広く普及していませんでした。たとえば、手のひらに乗る程度のパーツを従来の製法では約5000円で作れるのに対し、金属3Dプリントでは20万円もかかるそう。そのため、金属3Dプリンターは医療、軍事、航空といったハイエンドの業界に限定して使われてきました。
しかし、SUN METALONは金属3Dプリントのコストを90%削減することで、20万円かかっていたパーツを1万円程度で製造できるようにしました。
このコスト削減の秘訣は、プリントスピードにあります。一般的な金属3Dプリンターは、金属の粉末を加熱しながら点や線を重ねて造形しますが、SUN METALONは「面」で一気に加熱するため、非常に速く造形が可能です。この技術により、通常の金属3Dプリンターに比べて約500倍の速さでパーツを作成できます。スピードが向上することで、1日に生産できるパーツの数が増え、高価な装置のコスト負担も大幅に軽減されます。
さらに、SUN METALONの3Dプリンターは、鉄をはじめとして、鋼や銅、チタン、超硬合金など、約10種類の金属に対応することも可能です。まさに金属3Dプリンター業界に革新をもたらす存在といえます。
創業ストーリー:新技術を考案して4000万円の借金を抱えながら起業
SUN METALONの創業者である西岡和彦氏は、東京大学大学院で機械工学を専攻し修士課程を修了後、日本製鉄に入社しました。技術者として11年間勤務する中で、社費留学制度を利用し、アメリカのノースウェスタン大学での留学を経験しています。
この時期に西岡氏は、起業を意識し始めました。製鉄業界が大量生産から中量生産へとシフトしていく中で、次のトレンドはマイクロ生産になると確信し、自ら事業のオーナーシップを持って運営していきたいという思いが芽生えたのです。
日本に帰国した後、金属3Dプリンターが抱える「生産速度の遅さ」「膨大なコスト」という課題を解決するため、西岡氏は新しい原理に基づく金属加熱技術を考案。仲間のエンジニアたちと共に、Amazonで購入した約2万円の実験装置を使い、キャンプ場で実証実験を始めました。
その後、2021年2月に西岡氏は知人たちと共にSUN METALON Inc.を共同創業します。社費留学後に退職したことで、留学費用を自分で返済する必要があり、3,4000万円の借金を抱えることになりましたが、それでも西岡氏は起業を進めました。
実験開始から半年が経ち、ついに人に見せられる品質の金属パーツを製造することに成功します。その成果をもって東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)に掛け合い、無事に投資を受けることができました。その後、グローバル展開を視野に入れ、アメリカ本社と日本子会社を同時に設立しています。
創業エピソード等について詳しく知りたい方は、以下のYoutubeも参照してみてください。
資金調達:2024年10月にシリーズAにて31億円を獲得
SUN METALONは2024年10月3日に、シリーズA 1stクローズにおいて、日米の投資家や金融機関から総額31億円を調達したと発表しました。今回の資金調達により、創業からの累計調達額は約45億円に達しました。
具体的には、JICベンチャー・グロース・インベストメンツなどから約26億円*1(1768万ドル)の第三者割当増資を実施し、三井住友銀行から5億円を上限とする融資枠を設定したとのこと。(詳細は下部にて記載)
*1 米ドル=145円で換算
今回調達した資金は、主に2つの事業に充てられます。1つは顧客企業に向けた独自の加熱技術の導入、もう1つは地域の金属資源を利用した自社工場での金属製造です。また、これらの取り組みを支えるために、人的リソースの拡充や製造能力の増強にも力を入れ、脱炭素化や循環型社会の実現をさらに加速させるとしています。
<第三者割当増資>
- 調達金額:約26億円(1768万ドル)
- 新規投資家
- JICベンチャー・グロース・インベストメンツ
- HITE Hedge Asset Management
- 住友商事グローバルメタルズ
- 既存投資家
- 東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)
- グロービス・キャピタル・パートナーズ
- D4V
- i-nest capital
- Scrum Ventures
- Berkeley SkyDeck
<融資枠>
- 調達金額:5億円
- 銀行:三井住友銀行
市場規模:金属リサイクルの世界市場は2029年に7679億ドルへ
Global Informationによると、金属リサイクルの世界市場は2024年に5519億米ドルに達し、今後もCAGR6.8%で拡大を続け、2029年には7679億米ドルに達する見込みです。
この成長を支える主な要因は、脱炭素化の実現と循環型サプライチェーンへの移行です。金属産業は世界のCO2排出量の約10%を占め、その削減が急務となっています。また、地政学的リスクの高まりにより、従来のグローバルサプライチェーンからの転換も求められています。
SUN METALONが活躍し、カーボンニュートラルが実現されることに期待です。
企業概要
- 企業名:SUN METALON Inc. (株式会社SUN METALON)
- 代表者:西岡 和彦
- 設立:2021年2月2日
- 所在地
- 本社:1 Broadway, 14th Floor, Cambridge, MA 02142, USA
- 日本支社:〒212-0032 神奈川県川崎市幸区新川崎7-7 KBIC 203
- 公式HP:https://sunmetalon.com/jp
まとめ
本記事では、独自の金属加熱技術により、金属産業の脱炭素化を目指すSUN METALON Inc.について紹介しました。
New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。
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