ヨーロッパ全土では、昨今のコロナ過や高齢化を通じて、病院のスタッフ不足、ベッド不足が問題視されています。
スウェーデンで設立されロンドンに本社を置くDocclaは、このような状況を改善するために、バーチャルベッドを提供しています。バーチャルベッドとは、アプリやデバイスなどを用いて、自宅にいる患者をモニタリングしケアする形の新しいサービスです。Docclaはベッド不足に対して、早期退院した患者や、事情により入院が難しい患者を、リモートで管理するためのシステムを開発しました。
そして、Docclaは2024年9月に、本格的なヨーロッパ進出のために4600万ドルの大型資金調達を行っています。
今回はこのようなDocclaの詳しい事業内容や沿革、起業経緯、資金調達などについて紹介していきます。
事業内容:仮想病棟で本格的な医療ケアを可能にする新サービス
Doccla は、病院の臨床スタッフが患者のバイタルサイン(体温や呼吸数などの健康状態を表す数値)を、遠隔からリアルタイムで監視できる遠隔患者監視サービスを提供します。
Docclaが提供するシステムでは、 精度の高いデバイスや使いやすさを意識した患者アプリが特徴的です。 臨床スタッフがタイムリーに患者へ介入することが可能になり、患者の安全性を高めることができます。
バーチャルベッドの利用手順
①入院
患者は早期退院をするため、または入院を防ぐために、自宅にてDocclaの仮想病棟に入院します。
②オンボーディング
次に患者は、Docclaが提供するデバイスと患者アプリを使用して、現在のバイタルサインや症状などの測定値をDocclaに提出します。
③モニタリング開始
臨床医は患者の声やバイタルサインに対応します。また、バイタルサインで異常が見られた場合は、直ちに患者へのサポートを開始します。
④サポートの実施
必要に応じて、医師がアプリ内で患者にメッセージを送ったり、ビデオ通話をするなどの対応を行います。それに応じて、医療行為が行われます。
⑤退院
モニタリングの必要がなくなると、患者は仮想病棟から退院することができます。
Docclaが提供するバーチャルベッドの4つの特徴
①ハイグレードな臨床デバイスを使用
Docclaは患者の安全性を高めるために、高品質なモニタリングを提供しています。心電図からヘモグロビン、酸素飽和度など、14種以上の幅広い健康指標をモニタリングすることが可能です。また、継続的なモニタリングと、状態が安定している患者のための負担が少ない断続的なモニタリングが用意されており、柔軟に患者のニーズを満たすことができます。
②使いやすいように設計された患者アプリの提供
患者アプリは、事前に臨床機器と同期されており、すぐに患者自身のデータを収集し確認することができます。また、Docclaは、年齢や技術経験に関係なく、すべての患者にとってシンプルで使いやすいアプリを提供することを重要視しています。患者を第一に考え、複数の言語で利用できるデザインや大きなフォントでの表示にするなどの工夫が施されています。患者へのビデオ診察の予定を通知したり、過去の健康データに簡単にアクセスできるような機能も備えています。
③リアルタイム診察による臨床ケアの効率化
Docclaでは、医療提供者側がリアルタイムで患者の状態を確認できるように、臨床医ダッシュボードという機能を提供しています。患者のモニタリング強化だけではなく、臨床上の意思決定の改善、効率的なコミュニケーションなどのメリットがあります。
実際にバーチャルベッドを利用した患者の声
「妻と一緒に家にいたかった」
ここでは、2022年12月に放送されたスカイニュースから患者の声を紹介します。
ブライアン氏は、回復病棟で最大1週間入院することになる手術を受けました。
しかし、ブライアン氏は普段、妻の介護を担っており、病院に入院することを不安に思っていました。
しかし、Docclaのバーチャルベッドを利用することで、ブライアン氏は手術後に自宅にて療養することができるようになりました。
バーチャルベッドの技術を利用することで、入院の方法が拡大し、ブライアン氏のようなニーズを満たすことができるようになりました。
沿革:ヨーロッパでの事業拡大に向けて資金調達中
Docclaは2021年にスウェーデンで設立されました。
2021年には、HSJパートナーシップ賞2021:地域COVID-19対応パートナーシップ賞を受賞します。Docclaは、コロナ過において、仮想病棟を有効活用できる仕組みを整え、イギリス内で大きく貢献しました。
2022年には、デジタルヘルス150:2022年に世界で最も有望なデジタルヘルス企業に選ばれ、世界においても影響力を持った企業として成長します。
2024年には、欧米進出のために4600万ドルを調達し、事業拡大を進めています。
起業ストーリー:自身の患者経験から医療現場を改革へ
Doccla は、創業者のマーティン氏が若くして心臓発作を起こしたことをきっかけに設立されました。
その際に、マーティン氏は、何の監視もなしに入退院をするという経験をし、医療現場の在り方に疑問を抱きました。
そこでマーティン氏は、患者が自宅で安全に療養する間、医療提供者と患者を繋ぐ役割が必要であることに気づきます。
その考えをもとにマーティン氏は、テクノロジー活用に豊富な経験を持つダグ・ラーソン氏と提携して、Docclaを設立しました。
資金調達:4年間で約7400万ドルの資金調達を実施
Docclaは、4年間の間に約7400万ドルの資金調達を行っています。最新の2024年9月に行われた資金調達は、本格的な欧州進出に備えて行われました。
年月 | 調達額 | 投資家 |
2021年5月 | 330万ドル | Giant Venture、Speedinvest |
2021年9月 | 240万ドル | Giant Ventures、Speedinvest |
2022年9月 | 1710万ドル | Doccla、General Catalyst、他3人 |
2023年8月 | 非公開 | Open Tele Health |
2023年11月 | 535万ドル | Bertelsmann Investments |
2024年9月 | 4600万ドル | The Bertelsmann Investments 、他4人 |
将来展望:フランス・ドイツでの事業を強化し、ヨーロッパ外にも進出か
Docclaは、ヨーロッパ全土で仮想病棟を提供することを目標にしています。
ロンドンに本社を置くDocclaはイギリスとアイルランドでの地位を強化しており、ヨーロッパ10カ国以上で患者を監視し、NHS地域の半数以上でNHSトラストと連携しています。(NHSとは、イギリスが提供する国民保健サービスであり、受診が原則無料の制度です。)
また、新たな資金調達により、Doccla はフランスと DACH 地域(ドイツ語話者圏)をターゲットにヨーロッパ全土に事業を拡大できるようになり、同時にヨーロッパ以外の国際市場での成長も視野に入れています。
今後、ヨーロッパ以外の地域でも、Docclaのような医療サービスは拡大していくでしょう。
企業情報
会社名 Doccla
代表者 Martin Ratz
本社所在地 184 Shepherds Bush Rd, London W6 7NL ,The UK
設立年月日 2019年
従業員数 51-200人