
近年、異常気象や大規模災害の増加により、地球規模での監視や迅速な情報把握の重要性が高まっています。しかし、従来の光学衛星では雲や夜間の観測に限界があり、必要な時に必要な情報を得るのが困難でした。
こうした課題を解決するのが、フィンランド発のスタートアップ 「ICEYE Japan株式会社(以下、ICYCE)」 です。同社は全天候型の小型SAR衛星コンステレーション(人工衛星群)を運用し、地球上のあらゆる地点をリアルタイムかつ高頻度に観測できるサービスを提供しています。
小型SAR衛星(小型合成開口レーダー衛星)・・・マイクロ波レーダーで地表に電波を照射し、その反射波を捉えることで、地表の情報を観測できる地球観測衛星のこと
これにより、洪水などの自然災害発生時にも数時間以内に被害状況を把握することが可能となり、防災・保険分野で革新的なソリューションとして注目されています。
本記事では、ICEYEの事業内容や資金調達動向、市場規模等について詳しく紹介します。
事業内容①:SARデータ提供サービス

一つ目は、SARデータの提供です。同社の衛星コンステレーションから得られる高解像度データを、世界中のユーザーが必要な時に取得することが可能です。データ提供の仕組みはシンプルで、APIを通じてオンデマンドで取得したり、自動で分析レポートを受け取ったりすることができます。
特徴
・レーダーを使って地表を撮像
SARは電波を使って地表を撮像するため、夜間や悪天候でもクリアな画像が得られるのが特徴です。
・高頻度・全天候型モニタリング
ICEYEは現在 57基の小型SAR衛星 を運用しており(2025年時点)、特定地域を1日に最大6〜10回も観測できる驚異的な頻度を実現しています。例えば、大雨で氾濫した河川の周辺を数時間おきに撮影し、その水位変化や浸水域の広がりをリアルタイムで把握するといったことが可能です。こうした特性は、従来の光学衛星では成し得なかったレベルの変化検出を可能にしています。
・撮影リクエスト(タスキング)が可能
ICEYEは世界最大の小型SAR衛星コンステレーションを背景に、ユーザーの要求に合わせて撮像リクエストができ、数時間以内に新規画像を取得できます。これによりビジネス利用でも鮮度の高いデータを得られ、意思決定のスピードと精度が飛躍的に向上します。
利用分野
実際にSARデータは、
- 保険業界:災害発生後に被害評価を迅速化し、保険金支払いをスムーズにする
- 農林水産業・物流業:地理空間情報を活用して効率化を図る
- 環境分野:森林伐採やタンカーの動きを監視する
といった形で活用されています。世界最大級のSARネットワークを持つICEYEだからこそ、ユーザーのリクエストに応じて数時間以内に新しい画像を取得できる点も大きな強みです。
事業内容②:小型SAR衛星のコンステレーションの提供

二つ目は、小型SAR衛星の提供です。同社は世界最大級の小型SAR衛星群を自前で製造・運用する能力を持っているため、顧客は自分専用の衛星を持つような形で観測ミッションを利用することができます。
特徴
・従来の大型衛星と比べ、短期間・低コストで打ち上げ可能
衛星の開発準備はわずか18ヶ月程度で、既存の衛星キャパシティを数週間以内に割り当ててもらうことも可能です。これまで大型衛星は開発に数年・数百億円規模を要しましたが、ICEYEの小型SAR衛星なら短期間・低コストでの打ち上げが可能となり、衛星による常時監視のハードルを大きく下げています。
・衛星データの解析サービスまでワンストップで提供
ICEYEの強みは、単に衛星を提供するだけでなく、衛星データの解析サービスまでワンストップで提供できる点です。この包括力により、東京海上日動などパートナー企業から「信頼できる理想的なパートナー」と評価されています。ICEYEの専用SARサテライトサービスを利用することで、従来は得られなかった独自の宇宙からの目を手に入れ、迅速かつ的確な意思決定が可能になります。
ターゲットユーザー:防災・インフラ監視を担う官公庁や、広域監視が必要な民間企業(保険、エネルギーなど)
解決する課題
このサービスが解決するのは、必要なタイミングでの高頻度な地表観測です。
例えば国や自治体、大企業が独自に監視衛星を持ちたい場合、ICEYEにより「衛星の購入または期間利用」が現実的な選択肢となりました。独自衛星によってデータ取得の主導権を握れるため、安全保障(防衛・国境監視)や資源開発監視など、リアルタイム性と秘匿性が求められる用途に適しています。
実際、日本のIHIとの提携により、国内で最大24基の小型SAR衛星コンステレーションを共同運用する計画も進んでおり、国家規模の安全保障強化にも貢献しようとしています。
このサービスにより、政府や大企業が独自の監視衛星を持つことが現実的となり、安全保障やインフラ監視の強化につながっています。
事業内容③:自然災害ソリューション

三つ目は、自然災害ソリューションです。ICEYEは、24時間365日体制で取得した小型SAR衛星データを用いて自然災害の被害解析を行い、そのデータをワンストップで提供しています。例えば洪水であれば、発災からおよそ24時間以内に被害状況を可視化するなど、的確な意思決定を支援する解析結果を提供します。
提供されている代表的なソリューションは次の2つです。
- 洪水インサイト
- 山火事インサイト
洪水インサイト
洪水インサイトは、世界初の常時稼働型洪水監視ソリューションとして提供されています。洪水が発生すると、発災からわずか数時間以内に浸水の範囲や深さを特定し、GIS対応データ として可視化します。これにより、従来は現地調査に依存していた被害把握を、迅速かつ広域に行うことが可能になります。
主な特徴は以下の通りです。
- 洪水の 浸水範囲・深さ を高解像度データで把握
- 建物単位 での影響評価が可能(浸水した建物数や被害規模を即時算出)
- 保険会社は被害評価を早期に実施でき、保険金支払いを迅速化
- 政府・自治体は 優先的な救援活動エリアを特定 し、避難指示やリソース配分を効率化
例えば米国で発生したハリケーンの際には、発災から24時間以内に数十万棟規模の被害建物数を解析し、FEMA(連邦緊急事態管理庁)の救援計画に活用された実績があります。
山火事インサイト
山火事インサイトは、衛星画像とAI解析を組み合わせて火災被害を検知・モニタリングするサービスです。火災発生直後から、被害範囲や延焼の進行をほぼリアルタイムで把握できるのが特徴です。
具体的な機能としては、
- 衛星が取得したデータを用いて 火災発生エリアを自動検知
- 延焼状況のモニタリング により、火災の拡大方向を把握
- 被害範囲を地図上で可視化し、GIS形式で共有可能
- 保険業界では損害規模の算出に、自治体では 避難計画や鎮火活動の優先順位付け に活用
さらに、気象データや地形情報を組み合わせることで、火災のリスク評価や予測にも応用でき、将来的には被害拡大を未然に防ぐためのツールとしての役割も期待されています。
これらのデータは、保険会社にとっては迅速な支払い判断に、政府や自治体にとっては避難指示や救援活動の優先順位付けに役立ちます。さらに衛星データだけでなく、気象情報やSNS投稿も組み合わせた「包括的な災害インテリジェンス」を提供している点も特徴で、現在は洪水や山火事だけでなく、ハリケーン・台風、地震、火山災害、土砂災害等にも対応しています。
最新ニュース:株式会社IHIとの契約署名式を実施

ICEYEと株式会社IHI(以下、IHI)は、2025年5月22日に幕張メッセで開催された防衛展示会「DSEI Japan」において、最大24機の小型SAR衛星による地球観測コンステレーション構築に関する覚書(MOU)を締結しました。
この覚書では、軍事・民間・商業分野での地球観測データ提供を目的とし、日本国内に衛星製造施設を設立、国内運用を行う方針が示されています。

そして2025年10月16日、こちらの覚書(MOU)が正式な契約として締結されました。
またこの契約により、IHIはICEYE製小型SAR衛星4基を調達し、2026年度初頭から観測データの取得を開始する計画を発表しました。さらに、オプションとして追加20基の衛星製造・運用も含まれ、2029年度までに最大24基体制のコンステレーション構築を目指しています。衛星は国内で組立・試験される予定で、ICYCEとともに準備を進めています。
今後、この衛星群は小型SARに加え、光学センサー、赤外線、電波収集、ハイパースペクトルなど多様な観測機能を備えたシステムへ拡張される構想です。陸上や海上での作戦活動に必要な目標検出および追跡能力の提供を可能とすることで、日本の国家安全保障および経済安全保障に貢献することを目指しています。このようなIHIとICEYEの提携は、日本の宇宙産業振興と防衛力強化の両面で大きな節目となっています。
市場規模:拡大する地球観測ビジネスの潜在性

地球観測産業は宇宙ビジネスの中でも成長著しい分野です。2023年時点で世界市場は 約34億ユーロ(約5400億円) とされ、2040年にはグローバルで約10兆円の市場になるとの市場予測もあります。
年間成長率は約7%と安定した伸びを示しており、特に全天候型観測が可能なSAR技術の需要は高まっています。ICEYEは40機以上(2025年時点)の小型SAR衛星を運用し、世界最大級を誇ることから市場で優位な立場にあります。
日本国内でも、2040年に衛星データ関連市場が 1兆円超 に達するとの試算があり、災害対応を重視する日本にとってICEYEの技術は大きな関心を集めています。
会社概要
- 会社名:ICEYE Japan株式会社(アイサイジャパン)サイジャパン)
- 所在地:
・本社:フィンランド・エスポー日本法人
・日本法人:〒103-0022 東京都中央区日本橋室町1-2-6 日本橋大栄ビル7階 - 代表者名:ラファル・モドジェフスキ(Rafal Modrzewski, CEO)
- 設立年月日:2014年
- 公式HP:https://www.iceye.com/ja-jp/
まとめ
ICEYEは、革新的な小型SAR衛星技術で地球観測の常識を覆しつつあります。全天候・リアルタイムで地表の「今」を把握できる同社のサービスは、気候変動や災害対応といった社会課題の解決に直結しており、国内外から大きな期待が寄せられています。今後はさらに衛星数を増やし、データ精度や分析AIを高度化することで、新たなユースケースを開拓していくでしょう。
New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。
ICEYE Japan株式会社のように、国内外の面白い企業についてもまとめているため、関連記事もご覧ください。

