
日本は未曾有の高齢化社会を迎え、介護やリハビリの需要が年々高まっています。2025年には人口の約3人に1人が65歳以上になると見込まれ、要介護者や慢性疾患患者の増加に伴いリハビリテーションの重要性も増加中です。また、特別支援学校や障がい児向けデイサービスを利用する子どもの数も近年急増し、わずか5年間で約2.5倍に拡大しています。しかし、リハビリ専門人材の不足や、一人ひとりのニーズに合った支援を提供する難しさなど、現場には多くの課題が存在します。
こうした社会課題に向き合い、“リハビリを、アソビに”変える独自のアプローチで挑んでいるのが株式会社デジリハ(以下、デジリハ)です。
同社はデジタル技術によってリハビリを楽しく継続しやすい体験へと変革し、高齢者から障がい児者まで誰もが主体的にリハビリに取り組める環境づくりを目指しています。また、開発チームには実際に障がい児を育てる家族や作業療法士・理学療法士といったリハビリ専門職が名を連ね、現場目線のサービス設計も同社の強みです。
事業内容:リハビリをアソビに変えるツール「デジリハ」

デジリハ(Digital Interactive Rehabilitation System)は、ゲームとセンサー技術を融合したデジタルリハビリ支援ツールです。専用アプリとモーションセンサーを組み合わせ、利用者の動作をリアルタイムに検知・画面に反映することで、リハビリ運動を楽しい「遊び」に変え、リハビリの「退屈さ」や「継続の難しさ」という課題を解決します。
以下の点から詳しく説明していきます。
- サービスの仕組み・技術的特徴
- 実際の導入事例
- 受賞歴
サービスの仕組み・技術的特徴
デジリハは、リハビリを“アソビ”に変えるデジタルリハビリ支援ツールで、専用アプリ上で豊かなデジタルアートを表示し、利用者の動きを各種センサーで検知してインタラクティブに反応します。その中で、デジリハは以下の5種類のセンサーに対応しています。
・Leap Motionによる手指の動き検知
・加速度センサー内蔵のリストバンド(MOFF)での四肢運動検知
・視線入力ができるTobii Eye Tracker
・壁や床に投影した映像に触れられるレーザーセンサー(HOKUYO)
・音声認識用マイク
さらに、利用者の状態や目的に合わせて組み合わせ可能です。例えばレーザーセンサーを使えば壁や床面の映像を直接タッチでき、複雑な操作なしに“触れると動く”直感的なリハビリ体験ができます。ゲームの要素(ゲーミフィケーション)を取り入れて「もっとやりたい」という意欲を引き出し、動作データやスコアはクラウド上に蓄積・見える化されるため、利用者の成長を客観的に把握できる仕組みになっています。
専門知識がなくても簡単に操作でき、PCとセンサー類さえ用意すればすぐ導入可能な手軽さも特徴です。こうした技術により、重度障害のあるお子様でも適切なセンサー選択と設定調整によって楽しくリハビリに取り組めることが報告されています。
実際の導入事例

2021年のサービス提供開始以降、デジリハは全国各地のさまざまな現場で導入が進んでいます。現在までに医療機関、福祉施設、特別支援学校、公共施設など幅広い分野で利用されており、自治体とも連携した普及が展開されています。主な導入実績の例を挙げると次の通りです
- 医療機関: 千葉県の千葉西総合病院などの総合病院でリハビリテーションに活用されています。患者の能動的なリハビリ参加を促し、高齢者から子どもまで幅広い層に対応しています。
- 福祉施設: 長崎県の医療的ケア児向け放課後デイサービス「チームみらいときっず」では、大画面に常設投影したデジタルアートに子ども達が夢中になり、重度の知的障害がある子も大興奮で取り組んでいます。東京都の重症心身障害児者施設「EPOここね」でも導入され、言葉が出せない利用者が身体全体で「もっとやりたい!」と意思表示するなど好評です。
- 教育機関: 茨城県の水戸特別支援学校は国内初の学校導入例で、自立活動の時間にデジリハを活用しています。教師によると、デジリハでは子どもの取り組む様子を客観的に見られるため「一緒にどうしたらいいか考える場面が生まれた」と教育効果にも手応えがあります。
- 公共施設: 山形市のインクルーシブ児童遊戯施設「シェルターインクルーシブプレイス・コパル」では、障害の有無にかかわらず子どもが楽しめる常設遊具としてデジリハが採用されました。センサー操作を子ども達が自ら覚え、兄弟児と一緒に遊ぶ姿も見られるなど、地域の誰もが参加できる遊び場作りに貢献しています。
受賞歴:「Tokyo Social Innovation Tech Award 2024」など数多くの賞を受賞

デジリハの社会的意義と革新性は各方面から高く評価されており、数々の賞や支援を獲得しています。主な受賞歴・評価は以下の通りです。
- 2023年: 慶應義塾大学医学部主催のピッチコンテスト「健康医療ベンチャー大賞」にてリーグ横断優勝を果たし、文化庁主催スタートアップコンテスト「StARTs UPs」でも最優秀賞(グランプリ)を受賞しました。特に医学・福祉・技術の三位一体で課題解決に挑む点や、幅広いアプリとセンサーで個別最適化を実現している点が高く評価されています。
- 2024年: 東京都主催「Tokyo Social Innovation Tech Award 2024」に入賞し、XR・メタバース等先端技術による社会課題解決ソリューションとして選出されました。また、起業家団体EO東京による「EO ESGアワード2023」では審査員特別賞を受賞し、ソーシャルビジネスとしての社会貢献性も認められています。さらに国のSBIR推進プログラム(NEDO)採択企業として、次世代デバイス開発の研究も支援を受けています。
- その他の評価: 世界規模のアワードであるWorld Summit Awards 2023ではウェルビーイング部門の日本代表ノミネートに選ばれ、国際的にも注目を集めました。創業初期には日本財団主催「ソーシャルイノベーター支援制度」で優秀賞を受賞しており(2017年)、自治体・企業・財団から継続的に支援と期待を受けています。NHK『おはよう日本』や毎日新聞など主要メディアでも取り上げられ、デジリハの取り組みは広く社会に周知されつつあります。
資金調達:プレシリーズA2ラウンドで資金調達を実施、累計約4.4億円に

デジリハ社は2021年4月の創業以来、3度の資金調達で累計約4.4億円を調達し、順調な成長を見せています。2022年8月にシードラウンドで7,200万円を調達、2023年4月にプレシリーズAラウンドで1億円超、そして2024年10月にはプレシリーズA2ラウンドで累計約4.4億円の資金調達を達成しています。投資家にはVC(ベンチャーキャピタル)だけでなく戦略的パートナー企業も名を連ね、例えば音楽事業のヤマハグループもそのビジョンに共感し出資を決めています。
調達した資金の使用用途はリハビリ評価を高度化するシステム開発やAIを用いた新コンテンツ開発、事業拡大に向けた人材採用などです。なお、2022年度には国立研究開発法人NEDOの助成採択も受けており、重度障がい者向けセンサー開発などを進めています。また、デジリハのさらなる進化と普及に期待が寄せられています。
【プレシリーズA2ラウンドにおける資金調達概要】
<調達方法>
第三者割当増資
<引受先(順不同)>
・One Capital株式会社
・ベータ・ベンチャーキャピタル株式会社
・鎌倉投信株式会社(追加出資)
・株式会社ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス
・ひびしんキャピタル株式会社
※本ラウンド終了時での累計調達額は約4.4億円です
市場規模:リハビリが必要な人口、約24億人で世界人口の3割に

リハビリテーション関連市場は、世界的にも高齢化や技術革新を背景に年々拡大を続けています。日本においても福祉用具・介護用品産業の市場規模は2022年度時点で約1兆6,354億円に達し、リハビリ支援を含むヘルスケア領域は今後も堅調な成長が見込まれます。例えば世界の理学療法関連市場は2023年に約3.8兆円規模と推計され、今後10年で約8兆円に拡大するとの予測です。特にICTやセンサーを活用した「リハビリテック(リハビリ×テクノロジー)」分野は新たな市場として注目度が高まっており、行政や企業による開発投資も活発化しています。
一方で、日本国内ではリハビリ専門職の人材不足や地域間格差といった課題も顕在化しています。全国には障がい児者を対象とした支援事業所やリハビリ施設が数万箇所規模で存在しますが、どの現場でも質の高いサービスを提供するためにはデジタル技術による効率化・標準化が不可欠です。こうした状況下で登場したデジリハのようなリハビリDXソリューションには、市場からも大きな期待が寄せられており、その普及は日本の医療・福祉分野全体の課題解決につながると期待されています。
会社概要
- 会社名: 株式会社デジリハ(Digireha, Inc.)
- 所在地: 東京都渋谷区渋谷2丁目24-12 渋谷スクランブルスクエア39階
- 設立: 2021年4月
- 代表者: 岡 勇樹(代表取締役CEO)
- 公式HP: https://www.digireha.com
まとめ
本記事では、「リハビリを、アソビに。」というキャッチコピーのもと、遊び心と科学を融合させ、リハビリを楽しく継続できる体験へと変革している株式会社デジリハについて紹介しました。
導入現場では利用者の笑顔が見られ、支援者からはリハビリの質や信頼関係の向上を実感する声も上がっており、今後は国内外への普及拡大を見据え、24億人とも言われる世界中のリハビリニーズに応える存在へと成長していくことが期待されます。
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