
少子高齢化の急速な進展や都市部への人口集中、さらには地方における公共交通網の維持困難など、現代社会は深刻な「移動の危機」に直面しています。特に日本国内では、物流や旅客運送を支える運転手不足が過去には、「2024年問題」として称され、注目を浴びました。地域住民の足をいかに確保するかが喫緊の経営・政治課題となっています。
こうした中、独自のAI技術を駆使して「安全・安価・効率的」な自動運転シャトルを展開し、既存の交通インフラを補完しようとしているのが、米国ミシガン州発のスタートアップ、May Mobilityです。同社は、従来の自動運転開発とは一線を画す「マイクロトランジット」への特化と、トヨタ自動車やNTTグループといった日本を代表する企業群との強力な提携を通じて、自動運転の社会実装を驚異的なスピードで加速させています。
本記事では、May Mobility, Inc.の事業内容や資金調達動向、市場の規模等について詳しく紹介します。
事業内容①:独自AI「MPDM」による人間らしい意思決定
May Mobilityのコア・コンピタンスは、独自に開発した「MPDM(Multi-Policy Decision Making)」システムにあります 。従来の自動運転技術の多くは、あらかじめ定義された膨大なシナリオに基づいて動作するため、予期せぬ「エッジケース」に遭遇した際に車両がフリーズしたり、不自然な挙動を見せたりすることが大きな課題でした。
これに対し、MPDMは強化学習を用いたリアルタイムの推論機能を備えており、200ミリ秒ごとに周囲の状況を評価し、数千もの可能性のあるシナリオを瞬時にシミュレーションします 。

この技術により、路上駐車を回避する際や、狭い路地での対向車との離合、さらには予測不能な動きをする歩行者や自転車が存在する複雑な環境下でも、「人間のような」滑らかで適切な判断を下すことが可能になります 。この「現場での推論」こそが、事前に作成された高精度なHDマップに過度に依存せず、かつ安全性を飛躍的に高める同社独自の差別化ポイントです 。AIが常に複数の「ポリシー」を比較検討し、最も安全で効率的なルートを選択し続けることで、乗客にストレスを与えない快適な乗り心地を実現しています 。
事業内容②:マイクロトランジットと多様な車両プラットフォーム
May Mobilityは特定のルートやエリアを走行するオンデマンド型の自動運転シャトルサービスを提供しています 。これは、大型バスでは採算が合わず、タクシーでは個人の負担が大きすぎるという「公共交通の隙間」を埋める「マイクロトランジット」としての役割を果たします。同社のサービスは、都市部のラストワンマイル移動から、広大な大学キャンパス、さらには高齢者コミュニティ内の移動支援まで、幅広いユースケースに対応しています 。
【主な提供車両】

ベース車両:トヨタ・シエナ
ハイブリッド車ベース。米国での主要な配車サービスに使用。
ベース車両:トヨタ・e-palette
多目的EV。
日本国内の工場敷地内や実証実験で活用。

特にトヨタ自動車との深い連携により、市販のミニバンをベースとした「シエナ」や、自動運転専用の「e-Palette」に同社の自動運転キットを統合することで、信頼性の高いハードウェアと最先端のソフトウェアを融合させています 。これにより、導入コストを抑えつつ、既存の車両保守網を活用できるという実用的なメリットを顧客に提供しています。
ベース車両:Technobus製
最大30名乗車可能。2026年投入予定の大型電動シャトル。
事業内容③:日本国内における戦略的展開とNTT・トヨタとの協調
日本市場において、May Mobilityは単なる外資系ベンダーの枠を超え、日本企業と深く融合したエコシステムを構築しています。2021年の日本法人設立以来、国内での実証実験が相次いでいます。広島県東広島市でのオンデマンドバス実証を皮切りに、東京都内(有明・台場エリア)でのMONET Technologiesとの共同実証、さらにトヨタ自動車九州の宮田工場におけるe-Paletteを用いた従業員送迎など、多角的な展開を見せています 。

特にNTTグループとは、2023年に日本国内における自動運転システムの独占販売権を含む包括的な業務提携を締結しました 。NTTは、自社の光通信技術「IOWN」や5Gネットワーク、さらには遠隔監視システムをMay Mobilityの自動運転プラットフォームと組み合わせることで、地方自治体や交通事業者向けにパッケージ化したソリューションを提供しています 。これにより、日本の複雑な交通規制や地域特有のニーズに合致した、安全で持続可能な自動運転サービスの普及を目指しています。
資金調達:日本企業が主導する重厚な投資家ベース
May Mobilityは、その堅実なビジネスモデルと独自のAI技術により、これまでに総額3億8,300万ドルを調達しています 。特筆すべきは、出資者の多くが自動車、通信、保険、商社といった自動運転の社会実装に不可欠なアセットを持つ「戦略的パートナー」である点です。特に日本勢からの出資が目立ち、同社の技術に対する期待の高さが伺えます。
【資金調達状況】
・2025年5月
調達額:690万ドル・シリーズD-2,Eラウンド
主要投資家:伊藤忠商事
・2023年11月
調達額:1憶5000万ドル・シリーズDラウンド
主要投資家:NTTグループ(リード)、トヨタ・ベンチャーズ、あいおいニッセイ同和損保
・2022年7月
調達額:1憶1100万ドル・シリーズC
主要投資家:未来創生ファンドⅡ、ブリヂストン、東京海上、豊田通商、LG Technology
シリーズDラウンドを主導したNTTグループは、日本国内での独占販売権を取得しており、同社の技術を日本の公共交通インフラの標準へと押し上げる意向を示しています。また、三菱UFJ銀行も2025年に出資を公表しており、金融ネットワークを活用したフリート拡大の支援を表明しています。創業者であるエドウィン・オルソンCEOとスティーブ・ヴォザーCTOは、ロボット工学の深い知見を背景に、単なる「研究開発」に終わらない、収益性と社会貢献を両立させた成長戦略を描いています。
市場規模:爆発的な成長を遂げる自動運転モビリティ市場
自動運転車および自動運転シャトルの市場は、今後10年間で最もダイナミックな成長を遂げる分野の一つです。May Mobilityがターゲットとする「マイクロトランジット」や「ロボタクシー」の領域は、従来の自家用車市場を塗り替えるポテンシャルを秘めています。
自動運転車市場規模は、2024年は233.6億米ドル、2033年には653億米ドルと予測されています。年平均成長率は、12.1%、2024年時点での最大市場はヨーロッパとされています。

日本国内においては、2023年4月の改正道路交通法施行により「レベル4(特定条件下での完全自動運転)」の公道走行が解禁されたことが、市場拡大の決定的な追い風となっています 。日本政府は2030年までに全国47都道府県で自動運転バスを導入する目標を掲げており、May Mobilityが提供する「安価で導入が容易な」システムは、自治体にとって極めて魅力的な選択肢となっています 。また、民間セクターでは、物流倉庫や大規模工場内での「限定エリア自動運転」の需要も急増しており、e-Paletteのような多目的車両との統合がその可能性を広げています。
会社概要
- 会社名:May Mobility Inc.
- 所在地:650 Avis Drive Suite 100,Ann Arbor,Michigan,48108,USA
- 設立年月日:2017年
- 代表者名:Dr.EdwinOlson(CEO&Co-Founder)
- 公式HP URL:https://maymobility.com/
まとめ
May Mobilityは、独自のAI推論エンジン「MPDM」を武器に、自動運転の社会実装という難題に対し、極めて現実的かつ持続可能なアプローチで挑んでいます。単に技術の先進性を誇示するのではなく、既存の公共交通を補完する「マイクロトランジット」に特化し、トヨタやNTTといった強力なパートナーと共に「地域課題の解決」をビジネスの核に据えている点が、同社の最大の強みです。
今後、同社がNTTのIOWN構想と連携し、さらに高度な通信・コンピューティング基盤の上でどのような進化を遂げるのか、そして日本国内の隅々にまでその「安全な足」が届くようになるのか。May Mobilityの歩みは、次世代モビリティ社会の羅針盤となることは間違いありません。
New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。May Mobility, Inc.のように、国内外の面白い企業についてもまとめているため、関連記事もご覧ください。


