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信用情報が不足していることが理由で、銀行から融資を受けられない人々が世界中に存在します。特に新興国では、金融機関の与信基準が厳しく、多くの人々が適切な金融サービスを利用できていません。
そんな課題に挑むのが、今回紹介するスタートアップ「株式会社HAKKI AFRICA」(以下、HAKKI AFRICA)です。同社は「信用スコアパスポート」という仕組みを開発し、新興国の個人や中小企業が国境を越えて信用情報を活用できる環境を整えています。
この技術により、融資の機会を広げ、金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)を推進。さらに、この信用スコアパスポートを中古車ファイナンスにも応用し、ケニアのタクシードライバーが資産を築けるよう支援するなど、実社会でのインパクトを拡大中です。
本記事では、HAKKI AFRICAの事業内容や成長戦略をくわしく解説していきます。
事業内容①:新興国の信用評価を革新する「信用スコアリングパスポート」の開発
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HAKKI AFRICAは、新興国の金融機関向けに「Credit as a Service」という信用スコアリングAPI(越境信用パスポート)を提供しています。これは、個人の信用情報を国境を超えて活用できるようにするパスポートのような仕組みであり、特にマイクロファイナンス(小規模融資)を行う金融機関にとって重要なツールです。
この信用スコアリングのアルゴリズムには、先進国のエンジニアやマイクロファイナンスの専門家の知見が活用されており、数学的な推論をもとに個人の信用力を評価します。従来のように信用情報が不足している人でも、適切な金融サービスを受けられるようになる点が大きな特徴です。
さらに、Safaricom社のモバイルマネーサービス「M-PESA」のAPIを活用し、返済データを自動記帳する仕組みも導入。この技術により、金融機関が負担していた返済管理コストを約10分の1まで削減しました。結果として、融資コストが低下し、より低金利での融資が可能になっています。
また、日本のメガバンクや地方銀行との提携を進めることで、安定した低金利の資金を確保。これにより、競合他社が資金調達に苦戦する中でも、大規模な貸付を継続できる強みを持っています。
マイクロファイナンスとは?
マイクロファイナンスは、銀行の融資を受けにくい低所得者層や中小企業向けに、小口融資や貯蓄、保険、決済サービスを提供する金融サービスです。その代表例がバングラデシュのグラミン銀行で、貧困層の自立支援を目的に、小規模事業者に無担保で融資を行う仕組みを確立しました。
HAKKI AFRICAでは、従来の信用情報に頼らず、これまで活用されてこなかったデータをもとに与信を判断。銀行から融資を受けられなかった人々への資金提供を可能にし、新興国の金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)を推進しています。
事業内容②:信用スコアパスポートを活用した「中古車ファイナンス」
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HAKKI AFRICAは、ケニアの子会社「HAKKI AFRICA LIMITED」を通じて、中古車購入向けのファイナンスサービスを提供しています。従来の金融機関では融資を受けられなかった人々にも、公正な与信審査を通じて、車両購入資金を提供できる仕組みを構築しました。
特徴①:タクシードライバーの資産形成を支援
アフリカでは、多くのタクシードライバーが銀行から融資を受けられず、個人オーナーからレンタル車両を借りて営業しています。レンタルでは、月々の支払いを続けても車の所有権を得られないため、長期的な経済的安定が難しいのが現状です。
そこでHAKKI AFRICAは、独自の信用スコアパスポートを活用したローンを提供し、ドライバーがレンタル費用と同じ感覚で返済しながら、自分の車を購入できる仕組みを整えました。これにより、ドライバーは最終的に車を資産として保有でき、長期的な安定収入を得られるようになります。
特徴②:ライドシェア市場の発展を後押し
ケニアの首都ナイロビでは、ライドシェアアプリを活用したタクシー市場が急成長しています。しかし、金融機関の厳格な与信基準が障壁となり、多くのドライバーが融資を受けられない状況が続いていました。
HAKKI AFRICAの信用スコアパスポートは、これまで融資の対象外だったドライバーにもローンを提供できる仕組みを確立し、モビリティ市場の拡大と経済成長を支援しています。
アフリカ全域で金融サービスを拡大し「越境チャレンジャーバンク」へ
現在、HAKKI AFRICAはアフリカ初の「越境チャレンジャーバンク」の設立を目指し、さらなる金融サービスの拡充を進めています。すでに、同社の売上高は高成長を維持しており、連結の経常利益ベースで3期連続の黒字を達成。前年比+1,330%という驚異的な成長率を記録しており、今後も安定した成長が期待されています。
資金調達:シリーズC 1stクローズにて19.7億円を調達
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2025年2月3日、HAKKI AFRICAはシリーズCの1stクローズにおいて、総額19.7億円の資金調達を実施したと発表しました。今回のラウンドでは、SMBCベンチャーキャピタル株式会社とグローバル・ブレイン株式会社が共同リード投資家を務めています。これにより、同社の累計調達額は41.6億円に達しました。
HAKKI AFRICAは、今回の増資によって、さらなる海外展開を加速させる方針を示しています。
<資金調達の概要>
- 調達ラウンド:シリーズC 1st Close
- 調達額:19.7億円
- 第三者割当増資参加投資家
- SMBCベンチャーキャピタル株式会社
- グローバル・ブレイン株式会社
- 農林中央金庫(ファンド運営会社:グローバル・ブレイン株式会社)
- グローブアドバイザーズ株式会社
- ごうぎんキャピタル株式会社
- 融資(社債投資等含む)での参加銀行・ノンバンク・その他金融機関
- 三井住友銀行
- Funds Startups
- 北國銀行
- ファルス株式会社
市場規模:マイクロファイナンスの世界市場は2037年に7103億ドルに到達
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マイクロファイナンス市場は今後も力強い成長を続ける見込みです。SDKIによると、市場規模は2024年時点で約2,157億ドルと推定されており、2037年には7103億ドルに達すると予測されています。年平均成長率(CAGR)は9.6%と高水準で推移し、金融包摂の促進において重要な役割を果たし続けるでしょう。
現在、マイクロファイナンスでは、低所得者層や中小企業に向けた小口融資や貯蓄、保険サービスを提供し、経済的な自立を支援しています。市場の成長を支える主な要因としては、デジタル化の進展やフィンテックの活用、政府の支援強化です。特に、モバイルバンキングの普及やAIを活用したクレジットスコアリングの導入により、より多くの人々が金融サービスを利用しやすくなっています。
一方で、市場は高金利や過剰債務、規制上の障壁といった課題にも直面。多くのマイクロファイナンス機関は無担保融資を提供しているため、リスクを補うために金利が高く設定されがちです。また、借り手の信用情報が共有されていないことが、過剰な借入の要因となるケースも増えています。
今後は、AIやブロックチェーンを活用した新しい金融ソリューションの導入が、これらの課題解決につながると期待されています。特にアジア太平洋地域では、政府の支援やデジタル技術の普及により、最も高い成長率を示す見込みです。マイクロファイナンス市場は、今後も金融包摂と経済発展の鍵を握る分野として注目されるでしょう。
企業概要
- 企業名:株式会社HAKKI AFRICA
- ケニア子会社:HAKKI AFRICA LIMITED
- 代表者:代表取締役 小林嶺司
- 設立:2019年3月7日
- 所在地: 〒105-0023 東京都港区芝浦1-13-10 第3東運ビル8F
- 事業内容:
- 信用スコアリング技術の構築・マイクロファイナンス等小規模金融機関への与信システム提供
- 子会社を通じた、中古車担保のファイナンス事業
- 公式HP:https://hakki-africa.com/
まとめ
本記事では、「信用スコアパスポート」という仕組みを開発する株式会社HAKKI AFRICAについて紹介しました。
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