
株式会社ZIAI(ジアイ)は、テクノロジーを活用して人々の心の悩みに寄り添うAIスタートアップです。自治体や学校とも連携し、悩み相談チャットAI「傾聴AI」を提供することで、誰もがいつでも相談できる環境づくりに挑戦しています。
最近では、熊本市の子育て支援で2ヶ月間に171件の相談を受け付け、利用者満足度97%という成果を残し、学校での試験導入でも生徒の満足度93.6%を記録するなど、注目を集めました。
本記事では、株式会社ZIAI(以下、ZIAI)の創業ストーリーや事業内容、技術の特長、市場規模など幅広く紹介します。
創業ストーリー:「なぜ日本で命を絶つのか」その問いから始まった“悩みに向き合える社会”の実現

ZIAI創業者の櫻井昌佳氏は、国際NGOとしてインドで活動中に一時帰国し、日本で若者の自殺問題と向き合ったことをきっかけに、自殺対策に取り組むようになりました。その中で、インド人の同僚から「なぜ日本のような豊かな国で命を絶つのか?」と問われたことが、櫻井氏の価値観を大きく揺さぶりことになります。いじめや経済的困窮といった“悩みそのもの”ではなく、「悩みにどう向き合えるか」という“心の支え”の有無こそが重要なのではないかと気づいたのです。
当初はSNS上の自殺願望投稿を検知し声をかける仕組みを開発しました。しかし、相談対応の人手不足に課題を感じ、「相談応答率100%」を目指したAIと人間の協働体制に舵を切ります。その後、トヨタ財団の助成を受けてAIカウンセリングを開発し、2023年にはZIAIを法人化。本格的なスタートアップとして事業を開始しました。
第一弾として柏市と生成AIを用いた行政相談の実証を実施し、現在は子育て支援や学校現場などでも導入が進んでいる状況です。ZIAIという社名には「まずは自分自身を愛せるように」という想いが込められており、メンタルヘルスの分野でテクノロジーを通じた心の支援に取り組んでいます。
事業内容:行政・学校と連携した24時間対応のAI相談窓口

ZIAIは、悩みを抱える人が気軽に相談できるAIチャットサービスを開発・提供しています。自治体や学校などと連携し、ユーザー(市民や生徒)の悩みにAIがテキストチャットで応答する仕組みです。特徴は24時間365日利用可能な点で、時間や場所に関係なく困ったときにすぐ相談できる窓口を実現しています。
具体的なサービス形態としては、以下に挙げる行政向けの「ZIAIモデル」と学校向けの「ZIAIルーム」です。
ZIAIモデル:AIが福祉相談をサポートする自治体向けチャットシステム

ZIAIモデルは自治体の福祉相談窓口に特化した生成AIチャットシステムで、複雑・多様化する福祉分野の相談に対応するシステムです。傾聴AIアルゴリズムが悩みを抱える市民の話を丁寧に聞き、必要に応じて適切な支援機関へ自動連携することで、必要な人に必要な支援を届ける仕組み作りを支援します。
実際に山梨県では職員を介さず月約400件の相談対応をAIが行っており、行政の人手不足を補完しながら住民を支える取り組みとして成果を上げています。
ZIAIルーム:AIとカウンセラーが連携する学校向けAI相談窓口

ZIAIルームは学校現場向けの悩み相談DXサービスで、「チーム学校」で児童生徒を見守り支援する仕組みです。チャット相談AIとスクールカウンセラー等の人が連携し、教師の負担を軽減しつつ少人数でも多くの子どもたちに目配りできる環境を提供します。東京都内の高校で行われたモデル実証では月50件の相談に対応し、2件の不登校・自殺の未然防止につながった例も報告されています。柏市の小中学校での実証でも、多くの児童生徒がAIに悩みを相談し、「誰にも相談できず一人で抱え込みがちな悩み」を拾い上げる効果が示されました。
これらのサービスは、行政や学校と民間企業が協力する「官民連携」の形で提供されており、これまでに1万人以上が利用しています。柏市では平均満足度が82.5%、熊本市では97%と非常に高く、多くの人が「話を聞いてもらえて良かった」と感じており、ZIAIはこれらの実績をもとに全国への展開を進めていく方針です。
技術の特長:悩みに寄り添う共感型AI、ZIAIの「傾聴アルゴリズム」

ZIAIの最大の強みとされるのが、独自開発した「傾聴AIアルゴリズム」です。傾聴(けいちょう)とは相手の話に耳を傾け共感しながら受け止めることで、ZIAIのAIはまさに人の悩みに耳を傾ける対話に特化しています。最新の自然言語処理(NLP)技術と、ZIAIがこれまで蓄積してきた大量の悩み相談データを組み合わせることで、この傾聴AIアルゴリズムが実現されているのです。
傾聴AIはユーザーから送られたテキストメッセージを解析し、その内容や感情を理解した上で、共感的な応答や質問を返します。例えば、あらゆる相談に対して相槌や共感を交えた対話を行うことで、ユーザーに「ちゃんと話を聞いてもらえている」という安心感を与えることが可能です。実証実験でも「どんな悩みでも最後までしっかり聞いてくれて頼もしい」という声があり、AI相手でも人間さながらの寄り添いを感じられることがわかります。
もっともAIはあくまで相談の初期対応を担う存在であり、必要に応じて人間の専門機関につなぐ役割を果たす点も重要です。傾聴AIがユーザーの悩みを丁寧にヒアリングし、緊急性が高い場合や専門的支援が必要と判断した場合には、事前に連携している相談員や支援団体へ対応を引き継ぎます。このAI×人の協働によって、限られた人員でも相談対応率を100%に近づけることが可能となります。実際、有人の電話相談ではわずか5〜10%しか繋がらず、チャット相談の応答率も20%未満という現状がありました。ZIAIはテクノロジーでこのギャップを埋め、誰からのSOSも見逃さない仕組みづくりに挑んでいるのです。
資金調達:トヨタ財団と自治体支援で初期開発を完遂

現在、ZIAIの法人登記時の資本金は1万円とされていますが、ベンチャーキャピタルなどからの大きな出資や資金調達は、これまでに公表されていません。
その一方で、ZIAIは助成金や自治体による支援制度を活用しながら、事業を進めています。具体的には、以下のような資金源や支援を受けています。
- トヨタ財団からの助成金(株式会社化前)
ZIAIは一般社団法人として創業当初、公益財団法人トヨタ財団の助成プログラム「先端技術と共創する新たな人間社会(2021年度)」に採択され、約650万円(=6百万円台)の助成金を獲得しています。この助成により約3年間にわたりAIカウンセリングの研究開発を継続し、関連NPOと提携した実証実験を行う原資としました。 - 山梨県の実証実験サポート事業採択(行政支援)
株式会社化後の2023年、ZIAIは山梨県が実施する「TRY! YAMANASHI! 実証実験サポート事業」に第5期採択企業として選ばれています。このプログラムでは最大600万円(補助率3/4)の経費補助を受けられる枠組みがあり、ZIAIは山梨県内で悩み相談AIチャットシステムの実証実験を行うための支援を得ました。行政との協働により、資金面・実証フィールド面でバックアップを受けた形です。
以上のように、現時点では民間投資による資金調達ラウンドの詳細は明らかになっていないものの、トヨタ財団の助成金(約650万円)や地方自治体の支援プログラム(最大600万円規模の補助金枠など)を活用して事業を発展させてきました。今後、同社から資金調達ラウンド(出資受け入れ)に関する公式発表があれば、累計調達額や出資元の詳細が改めて公開されるものと考えられます。
市場規模:日本のメンタルヘルス市場は2033年に約369億ドルまで拡大

世界のメンタルヘルス市場規模は、2023年に約4,100億ドルとなっており、2033年には約5,730億ドルに達する見込みです(年平均成長率約3.4%)。

日本国内においても、2024年時点で約265億ドル(約3.7兆円)の市場規模があり、2033年には約369億ドルまで拡大すると予測されています(年平均成長率3.7%)。
また、メンタルヘルス×AI市場は、現在こそ規模が小さいものの、今後大きな成長が見込まれています。2023年には約9億ドルだった市場が、2033年には約148億ドルにまで拡大すると予想されており、年平均成長率は約32%と極めて高水準です。
このような成長背景には、コロナ禍を機にメンタルヘルスへの関心が世界的に高まったことや、デジタル技術による支援への期待が拡大していることが挙げられます。メンタルヘルスとテクノロジーが交差するこの領域は、今後も国内外で注目される分野と言えるでしょう。
企業概要
- 企業名:株式会社ZIAI
- 代表者:櫻井 昌佳
- 設立:2023年4月18日
- 所在地: 東京都渋谷区神宮前6丁目23番4号桑野ビル2階
- 公式HP:https://ziai.io/
まとめ
本記事では、悩み相談に特化した傾聴AIを開発・提供する株式会社ZIAIについて紹介しました。
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