
自動運転技術の開発競争が激化する中、Turing株式会社(以下、Turing。読みは「チューリング」)は独自のアプローチで未来のモビリティに挑戦しています。同社は、AI将棋の開発で名を馳せたプログラマーと自動運転分野の研究者が手を組み、技術と情熱を結集させたスタートアップです。
設立からわずか数年で多額の資金を調達し、日本国内で最先端のプロジェクトを進行中です。この記事では、Turingがなぜ業界の注目を集めているのか、その背景と展望について掘り下げます。彼らの挑戦は、単なる技術革新を超え、社会の未来をどう変えうるのか考えてみましょう。
事業内容:完全自動運転に向けた技術開発

Turingは、完全自動運転の実現を目指す先進的なスタートアップ企業です。同社は独自のAI技術を駆使し、カメラで取得したデータをもとに運転に必要なすべての判断を行う「End-to-End(E2E)自動運転システム」の開発に注力しています。
このE2Eシステムは、運転に必要なデータの入力から出力(ステアリング操作やブレーキ制御など)までを単一のAIモデルが一貫して処理する革新的な仕組みです。
さらに、Turingは人間と同等の判断能力を実現するために必要な生成AIの開発も行っており、以下の3つのプロダクトを発表しています。
- マルチモーダル生成AI「Heron」:異なる種類のデータ(例: 画像や音声)を統合し、高度な意思決定を可能にするAI
- 生成世界モデル「Terra」:運転シーンを仮想空間でリアルに再現する技術
- VLAモデルデータセット「CoVLA Dataset」:AIが運転環境を自然言語で分析し、最適な経路を立案するためのデータセット
Turingはこれらの技術を活用し、2030年までにハンドルのない完全自動運転車の実現を目指しています。実際に、現在「Tokyo30」というプロジェクトを掲げており、東京都内の市街地において30分以上にわたり人間の介入なしで完全自動運転を実現することを目標としています。
Turingの特徴①:End-to-End自動運転にフォーカス

Turingが開発の中心に据えているのは、End-to-End(E2E)自動運転です。この方式では、運転に必要なすべてのデータ処理を単一のAIが一括して行います。
従来のルールベース型(人間があらかじめ設定した条件に基づいて動作するシステム)と比べ、E2Eではデータの入力から出力までをAIが一貫して処理するため、設計が非常にシンプルです。また、シンプルであるが故に、以下のように多くのメリットがあります。
- システムの簡素化:複雑な手作業が減り、開発スピードが大幅に向上します。また、運用中のメンテナンスも容易です。
- コスト削減:高価なLiDAR(レーザーを用いた距離測定センサー)や複雑なセンサーを使わず、安価なカメラのみで対応可能です。
- HDマップ不要:通常のSD(標準解像度)マップでも動作するため、新しい道路や未経験の環境でも柔軟に適応できます。
- 複雑な状況への対応:人間がすべてのルールを事前に設定する必要がないため、予測不可能な状況でも柔軟に対応可能です。

ただし、E2E自動運転には課題もあり、すべての判断プロセスがAIの内部に閉じ込められており、外部からはブラックボックスのように見えるため、安全性や透明性に関する懸念が大きいです。
しかし、昨年Teslaが公開したE2Eモデル「FSD v12」が人間に近い運転能力を示したように、実績が徐々に積み重ねられています。Turingもこの分野での先駆者となるべく、高品質なデータセットを作成し、機械学習モデルの学習と検証を繰り返すことで精度の向上に注力しているそうです。
Turingの特徴②:完全自動運転の実現に向け生成AIを自社開発

Turingのもう1つの大きな特徴は、完全自動運転の実現に欠かせない生成AIを自社開発している点です。
完全自動運転を実現する上で大きな課題となるのが、「ロングテール」と呼ばれる交通状況への対応です。ロングテールとは、発生頻度が低く、多様で予測が困難なシチュエーションを指します。
【ロングテールの例】
- 交通誘導員が立っている交差点での対応
- 歩行者が突然道路に飛び出してくる状況
- 特殊な交通規制や予測できない障害物への対処
こうした場面は通常のルールベース型のシステムでは対応が難しく、公道での安全性確保における最大のハードルとなっています。
そこで、Turingはこのロングテール問題を克服するため、Webスケールの膨大なデータから多様な知識を学習し、人間のような常識や文脈の理解を獲得できる生成AIを活用。この生成AIを用いることで、まるで人間のドライバーが判断するかのような柔軟性を自動運転システムに付与しています。
Turingの特徴③:生成AIの開発を支える強力な計算資源を保有
Turingの強みの1つが、大規模な計算リソースを独自に確保している点です。
E2E自動運転や生成AIのトレーニングには膨大な計算資源が必要ですが、クラウドサービスの利用だけでは十分なリソースを確保することが難しい場合があります。そこで、Turingは専用計算基盤「Gaggle Cluster」を構築しました。
この独自の計算基盤により、Turingは次のような利点を得ています。
- 効率的なリソース管理:開発者が必要とする計算リソースを柔軟かつ即座に利用できるため、研究や開発業務に専念することが可能です。
- 長期的なコスト削減:自社で計算資源を所有することで、外部クラウドへの依存を減らし、移行や再構築にかかる手間とコストを削減しています。
- 高速なトレーニング:高性能な演算能力を活用することで、AIモデルのトレーニング速度を大幅に向上させています。
自社で計算基盤を持つことで、Turingは他社との差別化を図るとともに、開発の効率化を実現しています。この環境が、Turingの生成AIやE2E自動運転技術を支える基盤となっているのです。
創業経緯:「プログラマー×研究者」の出会い

Turingは、技術者とプログラマーという異なる専門性を持つ2人の創業者、山本一成氏と青木俊介氏によって設立されました。彼らの背景や出会いは、同社が持つ独自の魅力や強みを物語っています。
山本氏は、AIを活用した将棋ソフトの開発で名人を破るという快挙を達成したプログラマーです。この成功を経て、さらに挑戦的な目標を追い求め、起業を決意しました。一方、青木氏は、自動運転や移動ロボットの分野で海外でも注目される研究者であり、長年にわたり専門的な知識と実績を積み重ねてきました。
この2人が手を組むきっかけを作ったのが、ベンチャーキャピタルANRIの代表パートナーである佐俣アンリ氏です。佐俣氏は以前から青木氏の研究成果に注目しており、起業を勧めたい人物としてリストに挙げていました。一方で、起業を模索していた山本氏とも交流があり、2人がTuringで合流した際には「プログラマー×研究者」というユニークな組み合わせに可能性を感じたと語っています。
創業当初、山本氏が掲げた「We Overtake Tesla(テスラを超える)」という壮大なビジョンは、周囲に強い印象を与えました。また、シンプルな技術を駆使して行われた初期の自動運転実験も、投資家たちに可能性を感じさせ、2022年7月にはシードラウンドで10億円という異例の資金調達を実現する原動力となりました。
このように、異なる分野で高い実績を持つ2人が結集し、大胆なビジョンのもと新たな挑戦を始めたことが、Turingの創業の背景にあります。同社の歩みは、これからの日本の産業に新しい風を吹き込むかもしれません。
資金調達:2024年12月に政府系ファンドなどから10億円を調達

Turingは2024年12月25日、プレシリーズA追加ラウンドとして10.2億円の資金調達を完了したことを発表しました。この調達により、プレシリーズAラウンド全体での資金調達額は累計55.58億円となります。
【本資金調達の概要】
- シリーズ:プレシリーズA 追加ラウンド
- 合計調達額:10.2億円
- 株式調達:8.2億円
- 投資家:
- JICベンチャー・グロース・インベストメンツ
- JR西日本イノベーションズ
- NCBベンチャーキャピタル
- Turing CFO 盛島正人氏
- 投資家:
- 融資:2億円
- 提供元:みずほ銀行
資金調達の目的:プロジェクト推進・人材採用の強化
Turingは今回調達した資金を、以下の2つに活用するとしています。
- プロジェクト「Tokyo30」の実現
- 2025年までに、人間の介入なしで都内を30分間走行可能な自動運転システムを開発することを目指すとのこと
- 優秀な人材の確保
- 機械学習(ML)エンジニアを中心とした人材採用を加速させ、プロジェクトの推進力を強化するそう
市場規模:2026年に約620億ドルに到達する自動運転車市場

総務省によると、自動運転車の世界市場は2021年に240億ドルを突破し、その後も急速な成長を遂げています。2026年には、市場規模が約620億ドルに達すると予測されており、わずか5年で約2.6倍の拡大を見せる計算です。この成長の背景には、自動運転技術の進化と、それを支える人工知能(AI)の発展が深く関係しています。
AIが支える自動運転技術
自動運転車の進化の中心にはAIが存在しており、車両の「認知」「判断」「操作」という3つの重要なプロセスを支えています。
- 認知:車両に搭載されたカメラやセンサが周囲の状況を把握
- 判断:データをもとに、周囲の車両や歩行者の動きを予測し、安全で効率的な走行ルートを計算
- 操作:判断の結果に基づき、車両を制御して安全な運転を実現
これらのプロセスでは、特に生成AIが重要な役割を果たしています。画像認識技術や学習機能を用いて、状況を正確に把握し、最適な制御を可能にしているのです。
新たな技術の可能性:音声認識とマルチモーダルAI
AIの進化は自動運転技術に留まらず、音声認識やマルチモーダルAIの導入にもつながっています。
- 音声認識の活用
- 運転者が声で車両を操作できる機能が実現し、利便性が飛躍的に向上しました。さらに、緊急時の対応や高度なルート最適化などもAIによって支援されています。
- マルチモーダルAIの期待
- 将来的には、AIが音声や画像だけでなく、運転者や搭乗者との自然な対話を可能にする「マルチモーダルAI」の実装が進むと考えられています。これにより、完全自動運転の実現がさらに現実に近づくでしょう。
これらの技術は、単に移動手段を変えるだけでなく、私たちの日常生活や産業全体に大きな影響を与える可能性を秘めています。今後の市場動向や技術の進展から目が離せません。
企業概要
- 企業名:Turing株式会社(英語表記:Turing Inc.)
- 代表者:代表取締役 ⼭本⼀成
- 設立:2021年8⽉
- 所在地: 〒141-0032 東京都品川区大崎1丁目11−2 ゲートシティ大崎 イーストタワー4階
- 公式HP:https://tur.ing/
まとめ
本記事では、完全自動運転の実現を目指すTuring株式会社について紹介しました。
New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。
Turing株式会社のように、国内外の面白い企業についてもまとめているため、関連記事もご覧ください。