2015年に国連総会でSDGsが採択されて以来、世界中の国や企業がその目標達成に向けて尽力している。特に、気候変動や環境破壊の深刻化が進む中で、サステナビリティの重要性が高まっている。
企業は従来のビジネスモデルを見直し、環境に優しい素材やサービスを提供することで、持続可能な社会の実現に貢献する責務があるだろう。
そんな中、特に注目を集めているのが、株式会社TBM(以下、TBM)だ。同社は、石灰石を主原料とする環境配慮素材「LIMEX」を製造販売するなど、サステナブルな事業を展開している。
本記事では、サステナビリティ革命を起こしているユニコーン企業「TBM」について紹介する。
事業内容:サステナブルな素材・サービスを提供
TBMはプラスチックや紙に代わる新素材「LIMEX」を製造販売するなど、サステナブルな事業を4つ展開している。
<TBMの事業内容>
- 「LIMEX」石灰石を用いた環境に優しい素材
- 「CirculeX」資源循環を促進する再生素材
- 「Maar」資源循環プラットフォーム
- 「ScopeX」企業活動のCO2排出量を監視
事業①:「LIMEX」石灰石を用いた環境に優しい素材
TBMの主要事業の1つが、石灰石を主原料とする新素材「LIMEX(リメックス)」の製造販売だ。
紙やプラスチックの代替品として利用できるうえ、マテリアルリサイクルも可能なため、サステナブルな素材として注目を集めている。
画像のようにペン・スマホケースなど、さまざまな製品に加工可能で、既に10,000以上の企業や自治体等で採用されている。
なおLIMEXという素材名は、石灰石の英語名「Limestone」と、「無限の可能性」を意味する「X」を掛け合わせたものだそう。
石灰石は世界中で取れるため多くの国において資源保護に有効
産油国に頼ることが多い石油と異なり、石灰石は世界中に存在するため、枯渇リスクが非常に低いうえ、価格が安価・安定している。実際に、資源の乏しい日本でも220の石灰石鉱山が稼動しており、ほとんどの国で自給自足することが可能だ。
そのため石灰石を活用すれば、その国の石油や水、森林といった枯渇リスクが高い資源を守ることができる。また立地による制約を受けにくいため、長距離輸送を必要としないコンパクトなサプライチェーンを世界中で構築可能だ。
石油由来のプラスチックより製造・燃焼時の環境負荷が小さい
紙やプラスチックの代替品として利用できるLIMEXは、その製造・燃焼時の環境負荷が小さい点も大きな魅力だ。
石油由来のプラスチックは、原油を掘削して製油所に運搬した後、ナフサを分留し、取り出したモノマーを重合することで製造される。 そのため調達から製造までに、多くのエネルギーが消費されるうえ、多量のCO2が排出されてしまう。
一方で、石灰石は「採掘した石灰岩を粉砕する」というシンプルな製造工程のため、一連のプロセスで必要とされるエネルギーは石油由来のプラスチックより少量で済む。また分子構造の違いにより、石油由来プラスチックと比較すると、燃焼時のCO2排出量も58%ほど少ない。
リサイクル後も物性が保たれるのでマテリアルリサイクルに最適
LIMEXは石油由来のプラスチックと比較して、リサイクル前後で流動性や耐衝撃性といった樹脂の特性変化が少ないため、物性低下を抑制できる。そのため材料を再利用するマテリアルリサイクルに最適で、CO2の排出・資源の消費を抑えることが可能だ。
日本では回収されたプラスチックの70%がサーマルリサイクル(焼却処分)されており、マテリアルリサイクル率は低い水準に留まっている。
サーマルリサイクルは資源を再利用したり、熱を有効活用したりする点からサステナブルである一方、一度プラスチックを燃やす必要があり、多量のCO2を排出してしまう。
本当の意味でサーキュラーエコノミーを達成するためには、マテリアルリサイクルの拡大が欠かせないだろう。
事業②:「CirculeX」資源循環を促進する再生素材
「CirculeX(サーキュレックス)」は、使用済みのプラスチックやLIMEXといった再生材料を50%以上含む再生素材だ。世の中に流通しているプラスチックやLIMEX製品を適切に回収・再資源化・再製品化することで、資源循環型社会の実現を促進する。
バージン材(新品の素材だけを使って製造したもの)の代わりに、廃プラスチックなどを原料にするので、石油の使用量・CO2の排出量を削減できる。また定期的に素材を検査しているため、その品質も安心だ。
事業③:「Maar」資源循環プラットフォーム
「Maar(マール)」は、新たな資源循環を創造する、TBMの資源循環プラットフォーム事業のことだ。資源循環の使用→回収→選別→再生→製品化の各フェーズにおいて、ステークホルダーをつなぎ合わせ、最適なマッチングを実現する。
「Maar 再生材調達」再生材のマッチングプラットフォーム
「Maar 再生材調達」はデジタルプロダクトパスポート(*DPP)に適応した再生材の調達を支援するプラットフォームだ。再生材を利用して製品を製造したい企業と、再生材を生産販売したい企業をつなぎ合わせることで、資源の安定調達や業務効率化に貢献する。
*DPP:原材料調達からリサイクルまでの、製品のライフサイクル全体にアクセスできる電子的な記録。サプライチェーンに関するデータを収集・全体共有することで、消費者を含むすべての関係者が環境性を理解したうえで、製品や材料を購買することを目的としている。 |
「MaaR for business」オフィスの資源循環サービス
「MaaR for business」は、オフィス用品を通じて資源循環を実践できるサービスだ。
本サービスではLIMEXなどを使って製造された、環境に優しいオフィス用品を専用サイトから注文できる。使い終わったものはTBMが資源として回収し、自社工場にてマテリアルリサイクルを行う。
引き取り費用はTBMが負担してくれるうえ、引き取り量に応じて環境保護団体に寄付が行われる仕組みだ。ゴミを分別できるよう、オリジナルの分別ラベルや資源循環ボックスを用意してくれるので、比較的簡単に導入できるだろう。
事業④:「ScopeX」企業活動のCO2排出量を監視
「ScopeX」は、企業活動における温室効果ガスの排出量を可視化するサービスだ。
企業の脱炭素経営を実現すべく、管理用ツールや専任担当者からのアドバイスを提供してくれる。
CO2削減は、大型省エネ設備の導入・カーボンクレジット購入など、取り組むハードルが高いのが現状だ。ScopeXは、手軽に取り組めるサービスをもったパートナーと協力し、企業の脱炭素経営をサポートする。
創業ストーリー:台湾製ストーンペーパーから着想
現代表の山﨑 敦義氏は2008年、台湾製ストーンペーパーの輸入販売事業を行っていた。当時の日本は「エコ」という言葉が広がり始め、各企業の環境意識が高まりつつあったそう。
このトレンドに事業として大きなポテンシャルを感じた山﨑氏は、台湾のメーカーに対して品質改良を要求するも、折り合いがつかなかった。
そこで山﨑氏は現会長の角 祐一郎氏と共に、ストーンペーパーとは異なる、独自技術による新素材の開発を決意。2011年のTBM設立を経て、素材開発を本格的に開始し、LIMEX事業がついにスタートした。
以降企業とのアライアンスを強化したり、政府からさまざまな賞を受賞したりと、徐々にその影響力を拡大。2020年に新素材「CirculeX」を発表、2022年には「MaaR」「ScopeX」をリリースするなど、事業領域も拡大した。
資金調達:累計200億円超の資金を獲得
TBMはLIMEXをはじめとしたサーキュラーエコノミーへの取り組みが評価され、多数の投資家・企業から資金を調達することに成功している。特筆すべきは、SK日本投資会社からの資金調達と、「FUNDINNO PLUS+」を活用した資金調達だ。
韓国の大手財閥であるSK日本投資会社と135億円の資本業務提携を合意し、さらなるグローバル展開・生分解性LIMEXのJV設立の契約を締結した。SK日本投資会社は、2021年5月にSKグループの4社が共同出資して日本への投資向けに設立されたばかりの投資会社で、TBMが初の投資先となる。
また最近株式会社FUNDINNOが運営する「FUNDINNO PLUS+」を通じて、*特定投資家からの資金調達も成功させている。未上場企業の株式や投資信託を、特定投資家向けに発行・流通することを可能にする「J-Ships」を活用したものであり、日本初の取り組みである。
*特定投資家:「プロの投資家」として金融商品に対する十分な知識・経験を有していると考えられることから、金融商品取引業者が特定投資家向けに金融商品の開発・勧誘等を行う際に、法に基づく行為規制の一部が適用除外とされる制度 |
<2015年12月>
- 調達金額:15億円
- 出資者:UBS証券、UBS銀行東京支店
- 目的:LIMEXの技術開発・生産強化、人材採用、グローバル展開の強化
<2018年8月>
- 調達金額:不明
- 出資者:ディップ、伊藤忠商事
- 目的:LIMEX製品の販売強化、海外での工場建設
<2018年11月>
- 調達金額:31.2億円
- 出資者:伊藤忠商事、ゴールドマン・サックス、新生企業投資etc
- 目的:工場の立ち上げ、人材採用・研究開発の強化
<2019年3月>
- 調達金額:15.5億円
- 出資者:SBIグループ、三洋化成工業、JR東日本スタートアップ
- 目的:工場の立ち上げ、人材採用・研究開発の強化
<2020年11月>
- 調達金額:20.6億円
- 出資者:アデランス、Spotlight 1号、電通グループetc
- 目的:環境配慮素材の用途拡大、資源循環に向けたサプライチェーンの強化
<2021年7月>
- 調達金額:135億円
- 出資者:SK Japan Investment Inc.
- 目的:グローバル展開、素材開発、用途開発
- 備考:韓国大手財閥SKグループによる初の投資
<2024年2月>
- 調達金額:不明
- 出資者:特定投資家
- 目的:事業拡大
- 備考:J-Shipsを利用した株式による資金調達は国内初
市場規模:再生プラスチックは2035年に3594億円まで成長
富士経済グループによると、再生プラスチックの市場は2023年に1,727億円を記録。市場は今後も拡大を続け、2035年に2023年比2.1倍の3,594億円まで成長すると予測している。
日本政府が「プラスチック資源循環戦略」に基づき、再生プラスチック・バイオマスプラスチックの普及を後押しする法整備や助成を行っている。
またメーカーによるサステナブル素材の開発強化や展開商品の増加も進んでいる。ユーザー企業もGHG/CO2排出量削減・カーボンニュートラルやSDGs・ESGといった観点から、再生プラスチックやバイオマスプラスチック採用の目標を設定し、導入検討や採用を増やしているそう。
企業概要
会社名:株式会社TBM
代表取締役:山崎 敦義
設立:2011年8月
所在地:東京都千代田区有楽町1-2-2 東宝日比谷ビル15F
公式HP:https://tb-m.com/
まとめ
本記事では、プラスチックや紙に代わる新素材「LIMEX」を製造販売するなど、サステナブルな事業を展開しているTBMについて紹介した。
New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介している。
TBMのように、国内外の面白い企業についてまとめているため、関連記事もご覧いただきたい。