引用:JCCL公式HP
カーボンニュートラル社会を実現するためには、排気ガスや空気中に存在するCO₂を回収し、有効利用することが必要不可欠です。これまで多くのCO₂回収技術が開発されましたが、回収にかかるエネルギーやコストが課題となっていました。
そこで、この問題に立ち向かうべく、最先端の二酸化炭素回収・再資源化技術を研究しているのが、九州大学発スタートアップ「株式会社JCCL」(以下、 JCCL)です。
同社は産学官連携を活かし、低コストながら高効率でCO₂を回収できる新しいCO₂分離材料を開発しました。2024年5月には本技術を活用したCO₂回収装置の製品化にも成功しており、今後の活躍が期待されています。
本記事では、注目を集めるJCCLについて、事業内容等を紹介していきます。
事業内容:CO₂分離・回収に関する技術を研究開発
JCCLは、九州大学で開発されたCO₂回収の特許技術をもとに、技術研究や製品開発、法人等へのソリューション提供を行っています。具体的には、九州大学の星野友教授の技術がコアになっており、最近開発に成功した低コストかつ高性能なCO₂分離材料を軸に、さまざまな事業を展開しています。
JCCLの最大の強みは、産学官連携を活かした共同研究です。たとえば、上記画像の「減圧蒸気スイング型CO₂回収装置(VPSA1)」は、福岡市やJAXA、NEDOなど、複数の公的機関からの支援により、2024年5月に製品化に成功しています。
2024年9月には、さらに東京工業大学も共同研究に参加し、月面探査船内でのCO₂分離・除去のための膜分離装置の設計(画像上)に成功したと発表しました。この技術は宇宙探査におけるCO₂分離・除去だけでなく、地球上の大気・オフィスビル内の空気から、CO₂を直接回収するための基盤技術(Direct Air Capture: DAC)としての応用が期待されています。
CO₂回収・活用に関する研究開発〜エンジニアリングといったソリューションも提供
JCCLは法人等に向けて、CO₂回収・活用に関する研究開発から、エンジニアリングまでのトータルソリューションを提供しています。
具体的には、まずクライアントのCO₂排出源に対し、JCCLの技術が対応可能かどうかのProof of Concept(POC)を実施。JCCLラボ内で簡易的な分離試験を行い、POCレポートを提供します。
その後、クライアントにJCCLの技術をライセンスし、クライアントが求める条件下でCO₂分離の実証を行います。実証が成功すれば、現地で実機を導入し、試運転を開始。
その後は装置横展開、吸収材料のメンテナンスなどを継続的に行っていきます。
資金調達:2024年10月にシリーズAラウンドで4億円を調達
JCCLは2024年10月8日に、株式会社慶應イノベーション・イニシアティブ・DBJキャピタル株式会社をリード投資家とするシリーズAラウンドで、4億円を調達したと発表しました。これにより、累計調達額は7億円にのぼります。
また今回集めた資金は、次の活動に利用される予定です。
- パートナー企業と共にCO₂分離回収装置および分離膜性能評価装置の販売
- 来年度実証予定の1日30kgのCO₂を分離回収できる装置の製造
- 1日300kgのCO₂を分離回収できるコンテナサイズのCO₂分離回収装置の開発
- CO₂を高性能かつ低コストで回収するための吸収剤の製造プロセスの確立
<今回の資金調達について>
- 投資ラウンド:シリーズA
- 調達時期:2024年9月
- 調達金額:4億円
- 投資家
- 株式会社慶應イノベーション・イニシアティブ(リード投資家)
- DBJキャピタル株式会社(リード投資家)
- QBキャピタル合同会社
- 株式会社NCBベンチャーキャピタル
- ニッセイ・キャピタル株式会社
- インクルージョン・ジャパン株式会社
市場規模:CO₂回収・利用・貯留の世界市場は129億ドルに成長
Global Informationによると、世界のCO₂回収・利用・貯留(CCUS)の市場規模は2023年に31億米ドルを記録し、2030年までに129億米ドルに達する予測です。
また、矢野経済研究所は、2022年度のCCUS技術によるCO₂回収量は60万トンと推計、2050年度には年間1億4600万トンにまで発展すると予測しました。
2050年カーボンニュートラル宣言を受け、日本でもCO₂などの温室効果ガス排出削減が加速しています。しかし、再生可能エネルギーへの急速な転換はエネルギーの安定供給の面で難しく、火力発電所からのCO₂削減が目下の課題です。また、製鉄所やセメント工場、ごみ焼却施設など、CO₂排出量の多い産業も同様の問題を抱えています。
この課題に対し、CCUS技術の開発や実証が進められています。分離・回収したCO₂を活用するカーボンリサイクル技術は一部実用化されていますが、多くはまだ開発段階にあり、コスト削減が大きな課題です。経済産業省資源エネルギー庁が2023年3月に公表した「CCS長期ロードマップ」が示すように、本格的な社会実装は2030年前後から始まる見通しです。
企業概要
- 企業名:株式会社JCCL
- 代表者:梅原 俊志
- 設立:2020年12月
- 所在地: 〒819-0388 福岡県福岡市西区九大新町4−1 福岡市産学連携交流センター(FiaS) 108号室
- 公式HP:https://jccl.jp/
まとめ
本記事では、CO₂回収の特許技術をもとに、技術研究や製品開発、法人等へのソリューション提供を行う株式会社JCCLについて紹介しました。
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