世界的な人口増加や、畜産が環境に与える負荷が問題視される中、代替タンパク質の研究・開発が加速しています。
今回紹介する「DAIZ株式会社」(以下、DAIZ)は、大豆を使った代替肉の生産に取り組む、注目のスタートアップです。DAIZは大豆に適度なストレスを与える独自の技術により、旨味成分が凝縮された大豆を開発し、従来以上に美味しい代替肉の生産に成功しています。
「2023年10月にシリーズCラウンドで71億円を資金調達する」など、注目を集めるDAIZについて、その事業内容・資金調達の動向を紹介します。
事業内容:大豆を用いた代替肉「ミラクルミート」を販売
DAIZは大豆を原料とした代替肉「ミラクルミート」を開発しています。
同社の最大の特徴は、「落合式発芽法」という大豆加工に関するコア技術です。
同社のCTOである落合 孝次氏が編み出した特許技術であり、酸素量や二酸化炭素量、温度、水分をコントロールして、タンク中の大豆に適度なストレスを与えます。このプロセスにより、大豆の体内ではストレスに対応するため、分解酵素や合成酵素が活発に働き、代謝が加速。その結果、一般的な大豆よりも旨味成分や栄養素が増加した大豆が完成します。
実際に、落合式発芽法で作成した大豆は、グルタミン酸(うま味成分)が一般的な大豆の約5.5倍、元気な体づくりをサポートするアルギニンが1.45倍、イソフラボンが4.3倍、GABAが3.5倍までに上昇します。
DAIZはこのようにして旨味成分を高めた大豆を使用して、美味しい「ミラクルミート」を生産している点が大きな魅力です。
さらなる研究開発のために「DAIZエンジニアリング株式会社」を設立
DAIZ株式会社は、事業領域の拡大や経営課題の高度化・複雑化に迅速かつ的確に対応するため、高度な専門領域に対応する新会社「DAIZエンジニアリング株式会社」を設立しました。
実際に「植物由来の卵・牛乳の生産に向けた技術開発」「オランダにおける新たな開発拠点の開設」といったプロジェクトに着手しており、次世代の食品生産技術の確立に向けた取り組みを進めています。
- Plant-based EGG 事業:植物由来の卵「さながらエッグ」を開発
- Plant-based MILK事業:植物由来の牛乳「さながらミルク」を開発
- エンジニアリング事業:植物由来の食品素材の開発に挑戦
- グローバル事業:グローバル企業との提携を通じた世界展開
資金調達:2023年10月にシリーズCラウンドにて71億円を調達
2023年10月12日、DAIZ株式会社はシリーズCラウンドにて総額71億円の資金調達を発表し、これにより同社の累計調達額は国内フードテック業界で過去最高額となる131.8億円に達しました。
今回の資金調達の特徴として、独立行政法人中小企業基盤整備機構の「ディープテックベンチャーへの民間融資に対する債務保証制度」と、日本政策金融公庫の「農林水産物・食品輸出基盤強化資金」を国内で初めて併用。具体的な調達内容は、株式会社三菱UFJ銀行がアレンジャーを務めるシンジケートローンによる17億円、日本政策金融公庫のデットファイナンスによる17億円、資本提携先の6社と金融投資家5社を引受先とする第三者割当増資による37億円です。
調達した資金は、2025年2月からの操業開始を目指す「DAIZミラクルミート工場」の建設第1期に投資される予定です。この新工場では年間20000トンの「ミラクルミート」生産を見込んでおり、第1期工事では年間8000トンの生産能力を計画しているとのこと。
新工場建設でより強固なミラクルミートの生産体制を確立し、国内市場の拡大や海外への輸出戦略を加速させていくとしています。
市場規模:代替タンパク質の世界市場は2035年に4.9兆円まで拡大
株式会社矢野経済研究所の調査によると、植物由来の肉やシーフード、培養肉や昆虫由来のタンパク質といった代替タンパク質の世界市場は、2035年までに4.9兆円規模に拡大すると予測されています。なお、2022年の代替タンパク質市場の規模は、メーカー出荷金額ベースで約6400億円でした。
世界人口の増加に伴い、食肉の需要は今後も増加すると考えられており、このままではタンパク質の需給バランスが崩壊する「タンパク質危機」が生じてしまいます。一方で、従来の畜産業は温室効果ガスの排出量が多く、さらに飼料や水資源の消費量も非常に多いことから、環境への負荷が大きいです。
そこで増え続けるタンパク質需要に対応しつつ、環境への影響を抑えながらタンパク質を供給できる方法として、植物由来の肉や培養肉、昆虫由来タンパク質などの「代替タンパク質」に注目が集まっています。
市場トレンド:代替タンパク質を取り扱う企業が多数登場
世界的な食料問題への懸念から、多くのスタートアップが代替タンパク質の開発に取り組んでいます。
たとえば、北海道大学発スタートアップ「Floatmeal」は、高たんぱく質で栄養価の高い「ウォルフィア」(ウキクサの一種)を安定生産する技術を研究。2日に1回収穫ができるほど、ウォルフィアは短期間で大量に繁殖する特性を持つため、低コストでの大量生産が可能です。
他にも、スタンフォード大学の生化学者が設立した「Impossible foods」は、栄養価の高い植物性の代替肉を開発し、アメリカなどの5000都市で販売しています。ヘムという肉の風味成分を含むため、肉肉しい味がすると世界的に人気が高いです。
また、信州大学発のスタートアップ「Morus」では、カイコを用いた代替タンパク質を開発。カイコは鶏肉よりも高たんぱく質・低脂質と栄養価が高いうえ、育成にエサや水もほとんど必要ありません。実際に、名門イリノイ大学と共同研究を開始したり、Forbes Asia 100 To Watch 2024に選出されたりと非常に注目を集めています。
このように、未来の食料危機に対応する新たなスタートアップが次々と誕生しており、今後の活躍が期待されます。
企業概要
- 企業名:DAIZ株式会社(DAIZ Inc.)
- 代表者:代表取締役社長COO 河野 淳子
- 設立:2015年12月1日
- 本社所在地: 〒860-0812 熊本市中央区南熊本5-1-1 南熊本511ビルディング 4F
- 公式HP:https://www.daiz.inc/
まとめ
本記事では、旨味成分たっぷりの大豆から代替肉を生産するDAIZ株式会社について紹介しました。
New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。
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