今回は機械・部品メーカーの、株式会社ブリヂストン、川崎重工株式会社、京セラ株式会社の新規事業に絞って紹介していきます。 以下の、社内でそれぞれ新規事業として立ち上げられたサービスをまとめたので、ご覧ください。
- 【Morph】株式会社ブリヂストン
- 【Z-leg】川崎重工株式会社
- 【matoil】京セラ株式会社
【Morph】ゴム人工筋肉を提供する、ブリヂストン発のベンチャー
初めに紹介するのは、ブリヂストンが開発したゴム人工筋肉を活用したロボット「Morph」です。
ゴム人工筋肉とは、ゴムチューブに高い圧力をかけて油を注入することで、ゴムチューブが膨らみヒトの筋肉のように伸縮させることができる技術です。
Morphは、ブリヂストンの社内ベンチャーであるブリヂストン ソフトロボティクス ベンチャーズとクリエイター集団Konelによって提供されています。自然界や動物のモーションをセンシングしたデータがインストールされているソフトロボットです。
ここでは、Morphの機能や、沿革、創業ストーリーなどについて紹介していきます。
Morph :ソフトロボティクスを活用した新しいロボットの形
ソフトロボットに分類されるMorphは、柔軟性のある素材や、高度な制御システムが組み合わされた、繊細かつしなやかな動きをすることが可能です。
この技術を活かして、自然界ならではの動きを生み出し、人々に安らぎを提供します。
自然界や動物のモーションをセンシングしたデータがインストールされているMorphは、例えば、生物の胎動や呼吸、潮の満ち引きのような自然界のデータをもとに、ゴム人口筋肉を有機的に動作させることができます。
Morphはただ生物的に動作する仕組みであるからこそ、コミュニケーションをとることや気を遣う必要がありません。
目的を持つこともなく共存できる仕組みとして、人々に安らぎの時間を与えます。
【Morph inn】Morphに身を委ね、無目的な時間を過ごせる空間が表参道に
Morph innは、Morphを体感できる空間として、ブリヂストン ソフトロボティクス ベンチャーズとKonelによって立ち上げられた未来体験を提供するプロジェクトです。
2024年5月17日~25日の間に、表参道で提供されていました。
Morph innでは、大きなMorphの上に横たわり、小さなMorphを抱きかかえることで、やわらかいロボットに自らをゆだね、ゆだねられる時間を過ごすことができます。
普段は無意識に制御してしまう感情に向き合ったり、目的から解放される感覚を味わえるのが特徴です。
ブリヂストンのゴム人口筋肉技術
ここでは、Morphに使用されているブリヂストンのゴム人口筋肉技術について詳しく見ていきます。
ブリヂストンは、ゴム素材への研究開発への知見を活かして、上記の写真のようなゴムチューブとスリーブから成るラバーアクチュエータ(高分子複合体)の開発を行っています。
この技術を活かした、ヒトと協働することができる柔らかいロボットとして、「安心・安全なヒト・モノの移動と動き」を支えるソフトロボティクス事業に挑戦しています。
沿革:ソフトロボティクス分野での事業を拡大中
ここでは、Morphを提供しているブリヂストン ソフトロボティクス ベンチャーズの沿革を紹介していきます。
2023年1月に、ブリヂストン ソフトロボティクス ベンチャーズは、ブリヂストンの社内ベンチャーとして設立されます。
その後、ブリヂストン ソフトロボティクス ベンチャーズは、2023年2月に、ソフトロボティクスの事業化に向けてアセントロボティクス社と資本業務提携を結びます。
アセントロボティクス社は、独自のAI技術を持っていることから、高度なソフトロボティクスに向けての期待が高まりました。
2023年10月には、ソフトロボットハンド「第3の手」が2023年度グッドデザイン賞を受賞します。
第3の手とは、ブリヂストンのゴムの技術を活かして作られた、ヒトの手でもロボットハンドでもない、新しい存在として、物流や製造現場で活躍しています。
2024年5月には、表参道での「Morph inn」を開催しました。これまでは、BtoB向けのロボティクスを提供していましたが、イベントを通してより人々に近い存在として、世に広まりました。
Morph の始まりは、「つかむ」以上の役割を果たすため
ここでは、Morphがどのように生まれたのか、知的図鑑に掲載された、事業関係者へのインタビューから紹介していきます。
ゴム人工筋肉によるMorphのプロジェクトは、ブリヂストンの社内ベンチャーである、ブリヂストン ソフトロボティクス ベンチャーズとクリエイター集団である株式会社Konelとの共創によって始まりました。
ブリヂストン ソフトロボティクス ベンチャーズは、人工筋肉を使ったロボットハンドと人の手の間にある「第3の手」という位置づけを意識してきました。そしてさらに、これまでの「つかむ」という役割以上の価値を生み出すために、クリエイターとのコラボレーションが必要だったそうです。
ソフトロボティクスの未来を探索する中で、ゴム人工筋肉の有機的な動きが活きるものとして、「甘えたい」「ゆだねたい」というコンセプトが生まれ、Morphが開発されました。
Morph のクリエイティブを担当した出村光世氏は、近年ブームになっているサウナや瞑想に対して、「目的意識を持ってリラックスしようとすること自体がハイコストなのかもしれません。」と語っており、何一つプレッシャーを感じず、無目的でいられる装置として、Morph やMorph innという空間を着想したそうです。
企業情報
会社名 株式会社ブリヂストン
代表者 石橋 秀一
本社所在地 東京都中央区京橋三丁目1番1号
設立年月日 1931年3月1日
資本金 1263億5400万円(2023年12月31日現在)
従業員数 1万4106人(2023年12月31日現在)
【Z-Leg】スマホで手軽にヘリコプター旅行ができる新サービス
次に紹介するのは、川崎重工株式会社が提供する新規事業、ヘリコプター手配サービス「Z-Leg」(ゼータ・レグ)です。
Z-Legは、2023年3月から始まり、新しい空の移動手段としてビジネスや旅行に利用されています。
ここでは、Z-Legの詳しい事業内容、沿革、創業ストーリーを紹介していきます。
事業内容:ヘリコプターでしか味わえない唯一無二の価値体験
Z-legの名前の由来は、ヘリコプターの長所である垂直方向(Z軸)の航路(航空用語でLeg)です。
この魅力が最大限に発揮されることを願って名付けられ、Zの読み方であるゼータには、セーフティとダイレクトの意味が込められています。
Z-legでは、ウェブで申し込むだけで、簡単にヘリコプターが迎えに来てくれます。
運転手なども合わせて手配され、国内を最短距離で移動することが可能です。
ビジネスシーンでも旅行でも利用することができ、空の移動の贅沢さを味わえるサービスとなっています。
Z-legの3つの特徴
- 圧倒的な便利さと速さ
Z-legを利用することで、飛行機や電車のダイヤにかかわらず、国内の任意の2点を最短距離で移動することができます。東京~草津間は、約50分で移動できるなど(電車・車:約180分)、航路によっては圧倒的なタイムパフォーマンスを出せるため、現地での時間を有効活用することができます。 - 唯一無二の価値体験
ヘリコプター独自の高度で、街並みや地形美を空から眺めることができます。F1や花火大会など、混雑するイベント会場に直接空から降り立つことが可能で、利便性と特別な価値を体感することができます。 - 信頼と実績を活かしたサービス設計
単発エンジン機と比較し、安全性、飛行速度や積載量などの点で優れている、川崎重工が手掛ける双発エンジン機のみでサービスを提供しています。
(https://www.z-leg.com/cont12/45.html より)
プラン紹介
次に、Z-legが提供しているサービスの中でも、人気の旅行プランについて紹介していきます。
沖縄アイランドホッピング
沖縄では、本島から離島に移動する場合、フェリーや車を使うと、半日~1日を要することもあります。
しかし、Z-legのヘリコプターを使うことで、30分で離島へと移動することができます! 那覇空港から慶良間諸島へなら13万2千円で15分で到着、粟国空港へは26万4千円で30分で到着することができます。
また、ヘリコプターで周遊することも可能で、上記のようなプランで美しい海を堪能することもできます。
ニセコ俱知安へのフライト
新千歳空港からダイレクトにニセコへ30分で移動することができます。 往復のチャーター便で、212万円~で利用することが可能です。 車で約2時間半かかる道のりを、雪景色を楽しみながら30分で移動できるのが魅力です。
沿革:革新的なサービスで事業拡大中
Z-leg発案者の堀井知弘氏は、2018年の川崎重工社内の新規事業検討会で、ヘリコプターでの手配サービスを着想します。
その後、 を経て2023年に本格的にサービス提供を開始しました。 2024年は、F1観戦者に向けた送迎サービスの提供や、沖縄の県内各地を結ぶサービスなどさまざまなシーンに向けてサービスを拡大しています。
Z-legの創業ストーリー
ここでは、SIGNATUREに掲載された、Z-legの発案者である川崎重工の堀井知弘氏へのインタビューからZ-legの創業ストーリーを紹介していきます。
堀井知弘氏がZ-legを思いついたきっかけは「ヘリコプターの平均稼働時間は、1機につき1日1時間を切る」というデータを見た時だそうです。日本では現在31社が事業用ヘリコプターを保有し、420機のヘリコプターがありますが、平均稼働時間は1日1時間を切っています。
稼働していないヘリコプターをもっと有効利用できないものかと考えた際に、ヘリコプターの手配サービスが頭に浮かびました。
社内では、空飛ぶクルマの開発の話もでていたそうですが、まだ少し飛躍した発想だったため、堀井知弘氏は、現時点で空飛ぶクルマに一番近い存在としてヘリコプターに注目しました。
その後、自社で新たに旅行業の免許を取得するための社内調整から、提携する航空運送事業者、離着陸場となるへリポート、ヘリコプターから先の移動を担う道路運送事業者との調整、国や自治体との交渉など、多くの困難を乗り越えました。
そして、ヘリコプターを保有する航空運送事業者8社と、35都道府県の道路運送事業者の協力のもと、新規事業を立ち上げることができました。
企業情報
会社名 川崎重工株式会社
代表者 橋本 康彦
本社所在地 東京都港区海岸1丁目14-5
設立年月日 1896年10月15日
資本金 1億448万円(2023年3月31日現在)
従業員数 3万8254人(2023年3月31日現在)
【matoil】食物アレルギーで諦める人をゼロにする、京セラ発の新規事業
最後に紹介するのは、京セラ株式会社の新規事業、matoil(マトイル)です。
matoilは、食物アレルギーがある人に対して、食事を作り届けるサービスを提供しており、これまでに1000家族以上に食事を提供してきました。
ここでは、そんなmatoilのサービスや沿革、創業者の想いなどについて紹介していきます。
事業内容:すべての人の的を射る、食事提供サービス
matoilは、食物アレルギーがある子どもの「おいしい」や「食べてみたい」、親の「おいしく作りたい」や「食べさせてあげたい」という気持ちへ的確に答えるという思いから、「的を射る」という言葉にインスピレーションを得ています。
そんなmatoilが行う食事提供は、フルオーダーメイド、カスタムメイド、パッケージ商品の3種類の考え方で食物アレルギーに対応しています。
また個人だけではなく、企業向けのオリジナル商品の開発や食物アレルギー対応商品の提供なども行っています。
ここでは、matoilが提供するサービスである、オンラインでの食事提供とマトイルファクトリー、オープンファクトリーについて紹介していきます。
オンラインでの食事提供
matoilでは、オンラインでの食事提供を行っています。例えば、「anniversary meal kit」のような食物アレルギーや嗜好に合わせてオーダーメイドで提案する冷菜・温菜・パスタ・メイン・デザートのフルコースのごちそうキットです。また、季節のアニバーサリーコースや、給食の代替商品、お弁当、ピザやバケットなどのデイリー商品など、充実したラインナップです。
さらに、修学旅行先にも食事を届けるサービスまで行っており、幅広く食物アレルギーに対応しています。
マトイルファクトリー:レストラン×工房一体型スタジオ
mtoilの拠点である「マトイルファクトリー」は、東京都世田谷区上北沢に位置しています。 マトイルファクトリーでは、matoilの食事を作っているだけではなく、食のイベントを開催する「キッチンスタジオ」や予約制のレストランの提供、月に一回の店頭販売などを実施中です。
レストランにはメニューがなく、食べたいものをなんでも用意できる体制が整っています。 メニューが思いつかなくても、シェフが一緒にメニューを考えてくれるので、安心して楽しむことができます。
キッチンスタジオは、オンライン・オフラインかかわらず開催しており、シェフと一緒に料理やスイーツを作ることで、大人から子供まで楽しむことができるイベントです。
オープンファクトリー:matoilの体験型ワークショップ
毎月の最終土曜日は、matoilの料理を気軽に楽しむことができるイベント「オープンファクトリー」を開催中です。 店内では、マイ・パフェづくりや、わんこラーメン大会など、matoilらしい料理をテーマとしてワークショップを開催しています。
沿革:社内スタートアッププログラムから大幅事業拡大へ
matoilは、2018年12月から募集が開始された京セラの社内スタートアッププログラムから生まれました。matoilはスタートアッププログラムでの選考を通過し、プロジェクトとして進められることが決定し、2021年10月には、事業検証という形でプレスリリースをします。
その後、2022年7月からはオンラインショップをオープンし、本格的に事業化することとなりました。同年10月には、2023年度のグッドデザイン賞を受賞するなど、注目を浴びます。
その後も多様な商品のラインナップやイベントなどで事業拡大を続け、2024年3月には合計7万6千人が参加したアジア最大級の食品総合展示会「FOODEX JAPAN」に出展しました。
創業者の想い
matoilの代表者である谷氏は、幼少期から食物アレルギーと付き合ってきた経験からmatoilを立ち上げます。谷氏は、普段から外食で誤食のリスクを感じることがあり、外食での食事体験をもっと良くしたいと感じていました。食物アレルギーがあっても食事や料理の時間を楽しめるものにしたいという思いから、matoilをスタートします。
もともとは、外食先や旅行先などで誤食を防ぐサービスを考えていたそうですが、本当に喜んでほしい人たちに直接何かを届けたいという考えから、ごちそうキットを届けるという形に舵をきったそうです。
企業情報
会社名 京セラ株式会社
代表者 山口悟郎
本社所在地 京都府京都市伏見区竹田鳥羽殿町6番地
設立年月日 1959年4月1日
資本金 1億1570万円
従業員数 7万9185人(グループ会社含む)
まとめ
今回は、以下3つの機械・部品メーカー発の社内ベンチャーを紹介してきました。
New Venture Voiceでは、これらの事業ごとに、さらに詳しい記事を紹介しているので、上のリンクからご覧ください。