最終更新日 25/04/26
国内スタートアップ注目企業

【株式会社Penetrator】宇宙データで空き家問題に挑む不動産DX企業

AIシステム開発
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(引用:PR TIMES)

現在、日本は深刻な空き家問題に直面しています。総務省の調査によると、2018年の空き家数は849万戸(空き家率13.6%)、2023年には900万戸(13.8%)と年々増加を続けている状況です。適切に管理されない空き家は防犯や景観の悪化、行政コストの増大などの社会課題を引き起こします。

こうした課題に対し、JAXA発スタートアップである株式会社Penetrator(以下、Penetrator)は、「宇宙から不動産の課題を解決する」ことを掲げ、人工衛星データとAI技術を組み合わせて不動産業界に革新をもたらそうとしています。

本記事では、Penetratorの事業内容や技術、最新の資金調達状況や市場規模について詳しく紹介します。

事業内容①:不動産探索AI『WHERE』

(引用:株式会社Penetrator 公式HP)

Penetratorの主力サービスは、不動産探索AI『WHERE』です。衛星画像データとAI(画像解析技術)を活用し、世界中どこでも不動産取引につながる情報を瞬時に収集できることが特長です。具体的には、人工衛星が撮影した画像から駐車場や農地などの不動産を自動識別し、所在地や利用状況などをリモートで把握します。この技術により、従来は現地調査が必要だった不動産情報を効率的に収集でき、不動産仕入れ(物件情報収集)のDXが実現されています。

サービスは2023年6月にベータ版、2024年9月に公式版がリリースされ、大手デベロッパーを含む多くの企業に導入されました。不動産取引支援SaaSとして注目を集めており、リリースから9か月で単月売上高1億円を突破するなど急成長を遂げています。WHEREは、不動産業界のアナログな慣習を変え、ワンクリックで物件情報を取得することで、不動産事業者の業務効率を飛躍的に向上させています。

事業内容②:空き家特定システムの開発

(引用:PR TIMES)

Penetratorはまた、社会問題化する空き家問題の解決にも積極的です。

2024年度の相模原市アクセラレーションプログラム(SAP)を通じて、衛星データ水道の開栓・閉栓データを組み合わせ、短時間で空き家候補を発見する新システムを開発・実証しました。水道データは生活インフラとして統一化が進んでおり、多くの住宅で使用されるため空き家判定に有効ですが、単体ではノイズも含む課題があります。Penetratorは衛星画像から古い建物データを抽出し、これと水道利用情報を融合することで、行政が対処すべき管理不全の空き家を効率よくスクリーニングしました。その結果、わずか数分で高精度に空き家候補を発見できることを確認しています。この取り組みは自治体の空き家対策に貢献し、老朽空き家の特定業務を大幅に効率化するDX事例として評価されています。

このようにPenetratorの技術は、「鳥の目」(衛星データ)「モグラの目」(地下インフラデータ)を組み合わせた独自モデルであり、宇宙から街を俯瞰して社会課題を解決する新しいアプローチです。

事業内容③:ポテンシャル不動産マップの開発

(引用:PR TIMES)

Penetratorは2025年4月、夜間の地上の明るさを捉えた衛星夜間光データを活用し、「ポテンシャル不動産マップ」システムを開発したと発表しました。衛星夜間光データとは、夜間に人工衛星から観測される街の灯りのデータで、経済活動の活発度と高い相関があると注目されています。

従来、経済力の指標にはPOSデータや電力消費、人流データなどが使われてきましたが、それらは取得コストが高く災害時に脆弱という課題がありました。一方で衛星夜間光データは無料で広範囲をカバーし、地上インフラの影響を受けず継続的なモニタリングが可能です。Penetratorはこのデータから市町村単位の経済活発度指標を算出し、その月次変化をグラフ化するとともに、購買力は高いが地価が相対的に低い地域を「ポテンシャル不動産」としてマップ上に可視化することに成功しました。衛星夜間光の明るさと税収データには0.9以上の強い相関が確認されており、この手法により次に来る土地や将来有望な不動産エリアを直感的に見つけ出すことが可能になります。今後は災害発生時の経済影響分析や、復旧状況のモニタリングへの応用も検討されており、宇宙データの新たな活用例として期待されています。

資金調達:2025年3月のシリーズAラウンドにて5.5億円の資金調達を実施

(引用:PR TIMES)

Penetratorは2025年3月、シリーズAラウンドで5.5億円の資金調達を実施しました。引受先には、JAXA関連の宇宙フロンティア2号ファンド(スパークス・アセット・マネジメント運営)や、みずほキャピタル、スカパーJSAT、SMBCベンチャーキャピタル、りそなキャピタル、Great Wave Venturesなど、宇宙ビジネス・不動産テック双方に強みを持つ投資家が名を連ねています。

この調達により、Penetratorは人材採用組織体制の強化を図り、不動産領域での新たなユースケース開発、衛星データを統合したデータ連携基盤の構築、そして海外展開のPoC(概念実証)に乗り出す計画です。創業から約3年での大型調達は、同社のビジョンと技術が市場から高く評価されている証と言えるでしょう。

さらにPenetratorによると、日本国内には約12万社もの宅地建物取引業者(不動産仲介業者)が存在し、不動産仕入れの7割以上が人脈頼みという旧態依然とした状況があると指摘します。こうした背景も追い風となり、不動産テック(PropTech)領域でのPenetratorの成長性に期待が集まっています。

市場規模:日本・世界の不動産テック市場は急速に拡大

(引用:note)

Penetratorが挑む不動産テック(PropTech)市場は、国内外で急速に拡大しています。

日本のPropTech市場規模は2018年では約5,128億円でしたが、2025年度には1兆2,461億円に拡大すると予測されています。加えて、世界のPropTech市場規模は2023年に約335億7,000万ドルと推定されており、今後年平均成長率(CAGR)11.9%で拡大し、2032年には約899億3,000万ドルに達する見込みです。

不動産業界ではデジタル化の遅れが指摘されてきましたが、近年は取引のオンライン化やデータ活用のニーズが高まり、巨額の投資がPropTechに流入しています。特に日本では、空き家問題の深刻化や不動産人材不足を背景に、不動産業務の効率化や新サービス創出が早急な課題となっている状況です。政府も2020年代に入り、宅建業法の改正で契約手続きのリモート化を推進するなど、不動産DXを後押ししています。このような環境下、宇宙データを活用するPenetratorの試みはユニークかつ強力なソリューションです。国内の空き家対策市場においても、2023年に管理が不十分な空き家への税優遇措置を解除する法律改正が施行されるなど、空き家所有者へのプレッシャーが高まっています。自治体や民間問わず空き家利活用ビジネスや管理サービスが増える中、高度なデータ分析で空き家を特定・評価するPenetratorの市場ポテンシャルは大きいでしょう。

会社概要

  • 会社名: 株式会社Penetrator
  • 所在地: 東京都文京区向丘2-3-10 303
  • 設立: 2022年2月
  • 代表者: 阿久津 岳生(あくつ たけお)
  • 事業内容: 不動産探索AI『WHERE』の開発・提供、宇宙探査機技術の不動産領域への応用
  • 企業HP: https://pntwhere.com

まとめ

Penetratorは、宇宙技術と不動産テックを融合させることで、空き家問題や非効率な不動産取引といった業界の痛点に挑戦しています。衛星データとAIを駆使した『WHERE』は、「宇宙から価値ある不動産を見つける」斬新なアプローチで、多くの企業や自治体から注目を集めています。不動産業界は今まさにDXの転換期にあり、Penetratorのようなスタートアップの活躍が、新しい市場機会を創出しつつ社会課題の解決につながるでしょう。

New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。

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