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今回紹介する株式会社Halu(以下、Halu)は、障がいの有無に関わらず、すべての人に価値を感じてもらえる製品づくりを目指しています。Haluが展開しているのは、ベビー・キッズ向けのインクルーシブ・ブランド「IKOU」です。
インクルーシブデザインとは、高齢者や障がい者など、従来のデザインでは十分に考慮されなかった多様な人々のニーズに焦点を当て、当事者を巻き込んで共に創り上げるデザインアプローチのことを指します。
ユニバーサルデザインと混同されがちですが、この考え方はあらゆる人が使いやすい製品を目指し、デザイナーが一般的な課題を想定して設計する手法です。一方、インクルーシブデザインは、個々のユーザーが抱える具体的な困難を起点に、当事者と協力しながらデザインや製品開発を進め、フィードバックを反映させながら改良していきます。
IKOUが目指しているのは、障がいの有無に関係なく、すべての子どもと親が「一緒に使えるプロダクト」を提供することです。そして、この取り組みを通じて、人々が互いの個性や多様性を尊重し、支え合う社会の実現を目指しています。
本記事では、IKOUの製品とその誕生背景について、くわしく紹介します。
事業内容:IKOU ポータブルチェア
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こちらは、IKOUの製品である「ポータブルチェア」です。このイスは、家の中でも外出先でも使用できる折りたたみ式のキッズチェアとなっています。
障がいの有無に関わらず使用できることをテーマに設計されているため、機能面ではさまざまな工夫が施されており、幅広い子どもたちに対応できるようになっています。
最大の特徴:持ち運び・取付が簡単
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IKOU ポータブルチェアの最大の特徴として挙げられるのが、持ち運び・取付のしやすさです。
こちらのポータブルチェアは折りたたむことができるため、画像のように肩がけ、または斜めがけして気軽に持ち運ぶことができます。さらに、大人用の椅子に簡単に固定できるため、さまざまな状況で使用することが可能です。
このイスを使用すれば、家族や友達と同じ目線でテーブルを囲んだり、スポーツ観戦したり、キャンプやピクニックを楽しんだりできるので、家族の行動範囲を広げることにつながるでしょう。
IKOU ポータブルチェアの機能
IKOU ポータブルチェアには他にも便利な機能が大きく分けて4つあります。
<IKOU ポータブルチェアの便利機能>
- 体の角度を保ったまま傾けられるティルト機能
- 安定した姿勢を保つシート形状
- 成長に応じて調整できるパーツ
- 高い安全性
機能①:体の角度を保ったまま傾けられるティルト機能
IKOU ポータブルチェアには、背もたれと座面の角度を維持したままシート全体を後方に傾けられる「ティルト機能」が搭載されています。この機能により、体が前方へずれるのを防ぎながら、座った姿勢のまま哺乳瓶で授乳したり、抱っこで寝てしまった赤ちゃんを体の角度を変えずにそっと下ろしたりすることができます。
機能②:安定した姿勢を保つシート形状
IKOU ポータブルチェアのシートは、安定した姿勢を維持しやすい形状に設計されています。
座面は骨盤の位置を整えやすい形状になっており、背もたれは肩甲骨をしっかり支えます。さらに、胸部ベルトを使用することで、より安定した姿勢を保つことが可能です。また、カーブを描いた背もたれのデザインにより、肩から先の腕や手の動かしやすさが確保されている点も特徴です。
機能③:成長に応じて調整できるパーツ
IKOU ポータブルチェアの特徴として、子どもの成長に合わせて長く使用できるよう、背もたれとヘッドレストが可動式になっています。これにより、生後7か月(腰がすわる頃)から3歳頃(身長97cm)まで、成長に応じて高さを調整することが可能です。
また、座面を延長できる別売りのアクセサリーも用意されているため、より長い期間にわたって快適に使用できます。
機能④:高い安全性
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このポータブルチェアは、安全性にも細心の配慮がなされています。
たとえば、蓋を開けると背面が自動でロックされる仕組みになっており(画像左)、使用時に意図せず動くことを防ぎます。解除ボタンは、子どもが使用中に触れることのできない背面に設置されているため、安全性も抜群です。
さらに、ティルト機能を使用する際に体重が後方へかかっても、椅子が転倒しないよう支えるレバーも備えられています(画像中央)。これらの安全仕様はユーザーテストによって検証済みであり、安全基準や製品認証を示すSGマーク(画像右)も取得しています。
IKOUポータブルチェア誕生の背景
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IKOUポータブルチェアの誕生には、HaluのCEOである松本友理氏の強い想いが込められています。松本氏は、脳性麻痺による肢体不自由を持つ息子を育てる中で、障がい児専用の生活用品と、健常児向けのベビー用品の間に明確な隔たりがあることを実感しました。特に、椅子やベビーカーなどの家具において、その差は顕著で「少しの工夫があれば、障がいのある子どもも一般的なベビー用品を選べるのではないか」と考えながら、適した商品を探していました。
その経験から、松本氏は「この社会の隔たりを埋めることはできないだろうか?」という疑問を抱き、障がいのある子どもも、そうでない子どもも共に使える製品をつくることを決意しました。そして、最初に着目したのが「椅子」でした。
従来の肢体不自由児向けの椅子は「座位保持装置」と呼ばれ、姿勢をしっかり支える機能には優れているものの、大きくて重いため外出時には不便で、価格も高額なため手が届きにくいという課題がありました。さらに、家庭内でもその椅子に座ることで子どもが孤立しやすく、居場所が固定されてしまうという現実もありました。
そこで松本氏は、もっと手軽に使え、誰もが手に取りやすい価格の「椅子」を作りたいと考えました。障がいのある乳幼児を育てる家族も、そうでない家族も「使いたい」と思えるデザインで、子どもたちが家族や友だちと一緒に過ごす時間をより豊かにできるもの。そして、ポータブルで気軽に持ち運べる椅子を──。そうした想いが形となり、IKOUポータブルチェアが誕生したのです。
IKOUポータブルチェアが気になった方はこちらをご覧ください。
事業内容:「IKOU 」の他の製品
「IKOU」にはポータブルチェア以外にも、障がいの有無に関わらず使用できる製品が2つあります。それが「IKOU スタイ」と「IKOU キッズウェア」です。
「IKOU スタイ」
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1つ目は「IKOU スタイ(IKOU Bib)」です。スタイとは、いわゆるよだれかけのことです。この製品は吸水速乾性に優れたオリジナル素材を使用しています。肌に触れる表側はオーガニックコットン、裏側はリサイクルポリエステルを使ったリバーシブル構造になっており、肌に優しさを保ちながら、吸水速乾の機能を実現しています。
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また、シンプルなデザインで、どんな洋服にも合わせやすいベーシックカラーで展開しています。
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さらに、使用シーンや体型に合わせて選べるよう、レギュラーとラージの2種類のサイズがあり、首周りの長さはスナップボタンで調整できるため、赤ちゃんから大人まで年齢や性別を問わず使用可能です。
IKOU スタイが気になった方はこちらをご覧ください。
「IKOUキッズウェア」
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2つ目は「IKOU キッズウェア」です。この製品は「インクルーシブデザイン」の考え方をもとに、特別なニーズを持つ子どもたちやその親の意見を反映して作られています。特に、障がいのある子どもたちは体温調節が難しいため、キッズウェアの開発において最も重要なのは、体温調節のしやすさです。
そのため、IKOUキッズウェアでは生地にメリノウールを使用しています。メリノウールは「天然のエアコン」と呼ばれるほど、体温調節に優れた素材で、冬は暖かく、夏は涼しく感じることが可能です。さらに、UVカット機能や自然由来の抗菌・消臭機能も備えており、心地よさを追求したデザインとなっています。
これらの製品は、すべての子どもと親がファッションを楽しみ、心地よい時間を過ごせるように作られています。
IKOU キッズウェアが気になった方はこちらをご覧ください。
資金調達:1982インパクトファンドより資金調達を実施
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Haluは、2025年2月12日に、持続可能なソーシャルビジネスを創出することを目的とした1982インパクトファンド(以下、同ファンド)から資金調達を実施しました。このファンドは、社会課題解決を目指し、継続的な事業運営を通じて社会に貢献する企業に出資しています。
今回の資金調達は、Haluのインクルーシブな社会実現に向けたこれまでの取り組みを評価し、今後の展開に対する期待から決定されたものです。なお、具体的な調達金額については公開されていません。
Haluは、以下のように述べており、今後、事業拡大とそれに伴う社会貢献が期待されます。
今回の支援を受け、既存プロダクトの展開を強化するとともに、インクルーシブデザインの手法を用いた新商品やサービスの開発に注力します。特に、他企業・団体とのコラボレーションや研修事業を通じて、インクルーシブな社会づくりへの活動を広げていく予定です。プロダクトやサービスの共同開発、障害児家族へのリサーチ、インクルーシブデザインに取り組むための社員研修やコンサルティングなどのサービスを提供しておりますので、協業にご関心をいただける皆様は、ぜひお問合せください。
創業者プロフィール:松本 友理
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略歴
2007年に大学卒業・トヨタ自動車に入社。
本社にてプロダクトマネージャーとして、カローラなどのグローバル戦略車の商品企画や、コーポレート価格戦略を担当。ものづくりには、人びとの暮らしをよりよく変える力があることを実感する。
2016年に長男を出産し、脳性まひによる運動機能障害が判明。育児を通して、現在の日本では幼少期から生涯にわたり、遊び・学び・仕事などの生活の場が障害の有無によって社会構造的に隔たれていることに課題を感じ、起業を決意。後に退職。
2020年に株式会社Haluを創業。
2022年4月に乳幼児向けインクルーシブ・ブランド「IKOU(イコウ)」をローンチ。
企業概要
- 企業名:株式会社 Halu
- 代表者:松本 友理
- 設立:2020年4月
- 所在地: 京都市中京区室町通蛸薬師下る山伏山町546-2京都芸術センター 北館3F 2号室
- 公式HP:https://ikoudesign.com/ja
まとめ
本記事では、株式会社 Haluについて紹介しました。
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