今回紹介するスタートアップは、「日本ハイドロパウテック株式会社」(以下、日本ハイドロパウテック)です。同社は独自の加水分解技術を開発しており、その技術を基盤に、食品の企画・製造や関連機器の販売、自社チョコレートブランド「ANY1 CHOCO」を運営しています。
また、日本ハイドロパウテックは、2023年1月に株式会社ロッテと資本業務提携を締結し、2024年11月には4億円の資金調達にも成功しました。このように、今後の活躍が期待される日本ハイドロパウテックについて、その事業内容や資金調達の動向についてくわしく解説していきます。
事業内容:加水分解製造の独自技術を軸にサービスを展開
日本ハイドロパウテックは2014年の創業以来、独自の「加水分解製造技術」を基盤として、食品の企画・開発・製造・販売を行っています。この技術を活用し、関連機器の販売やコンサルティングも行っているほか、100%植物性原料を使用したチョコレートブランド「ANY1 CHOCO(エニワンチョコ)」も展開中です。
日本ハイドロパウテックの加水分解技術は、さまざまな食材や素材を独自の方法で分解し、本来その素材にはない新しい機能を加えることで、食品開発の多様なニーズに応える原材料を作り出すものです。
具体的には、まず無酸素状態で100~300℃の温度を保ちながら熱分解を行い、その後、スクリューによる物理的な分解を経て、最終的に酵素で分解します。この過程で、米や小豆などの農産物や水産物を分子レベルにまで分解し、粉末状の加水分解物に加工します。
通常の加水分解技術では、酸分解・熱分解・酵素分解の3つを組み合わせることが一般的です。しかし、日本ハイドロパウテックの技術は、酸分解を行いません。そのため、分解時間が短く、ケミカルフリーであることに加え、無酸素・無排水の環境で製造するため、素材本来の栄養や風味を保つことが可能です。
さらに、この技術の利点として「生成した製品を『原材料そのもの』として表示できる」という点があります。これにより、成分表示がシンプルになり、消費者が特定の成分の有無を確認しやすくなります。特にアレルゲンフリー対応製品では、アレルゲンの含有状況が明確になるため、消費者に安心感を与えられるでしょう。
また、代替乳製品や代替肉製品の分野でも、この技術が非常に効果的です。こうした代替製品は一般の製品とは異なる成分を使用することが多いため、消費者に対し「『天然素材であること』『動物性成分が含まれていないこと』を明確に伝えること」が重要です。日本ハイドロパウテックの加水分解技術によって生成された製品は「原材料そのもの」としてシンプルに成分表示できるため、代替製品の特徴が消費者に伝わりやすく、わかりやすい情報提供が可能になります。
実際に、日本ハイドロパウテックの加水分解技術は、次のような製品で活用されています。
用途 | 加水分解する材料 | 代替可能なモノ | 活用先 |
乳化剤 | もち米 | シュガーエステル (一般的な乳化剤) | パン ドレッシング |
増粘剤 | お米 | キサンタンガム グァーガム (一般的な増粘剤) | カップラーメンの粉末 粉末青汁 |
酸化防止剤 | お米 | BHA トコフェロール (一般的な酸化防止剤) | パン どら焼き パウンドケーキ |
旨味・甘味アップ | 穀物や野菜、昆布など | 砂糖 化学うま味調味料 人工甘味料 | だし醤油 キャンディ 米菓 |
シンガポールに自社ブランド「ANY1 CHOCO」の初店舗をオープン
先述した通り、日本ハイドロパウテックは、100%植物性原料を使用したチョコレートブランド「ANY1 CHOCO(エニワンチョコ)」を展開しています。
チョコレート製品の原料には、カカオ以外に乳・小麦などが使われることが多く、さまざまな制限から食べられないという人がいます。そこで「ANY1 CHOCO」は、おいしいチョコレートをできる限り多くの人に楽しんでもらうため、全ての製品を100%プラントベース(植物性原料)で製造。乳製品不使用のデイリーフリー、小麦粉等不使用のグルテンフリーなど、原料からこだわった開発を行っています。
また、同社の加水分解技術を応用することで、植物性原料のみを使用しながらもカカオの風味をしっかり引き出した、深い味わいのあるチョコレート製品を実現しています。
2024年4月1日にグランドオープンした「ANY1 CHOCO シンガポール店」では、タブレットやドラジェに加えて、店舗限定のチョコドリンクやチョコアイスを楽しむことが可能です。さらに、日本国内でも公式オンラインストアを通じて、順次商品展開を予定しています。
資金調達:2024年11月8日に4億円を調達
日本ハイドロパウテックは2024年11月8日に、INSPiRE Mutualistic Symbiosis Fund 1投資事業有限責任組合(以下、IMSF)より、約4億円を資金調達したことを発表しました。
資金調達の目的:海外事業展開の加速
日本ハイドロパウテックの資金調達の目的は、海外事業展開の加速です。具体的には、IMSFが支援する国内外パートナーと連携することで、以下の取り組みに取り組むとしています。
- 既存製品の輸出促進:日本国内で既に販売されている製品を海外市場へ積極的に輸出し、国際的な販路を拡大
- 加水分解物製品の現地製造:海外市場向けに加水分解物製品を現地で製造する体制を整え、現地ニーズに迅速に対応
INSPiRE Mutualistic Symbiosis Fundについて
今回、株主となったIMSFは、改正投資円滑化法に基づき農林水産大臣の承認を受けた日本初のファンドです。IMSFは、世界に向けたフード・バリューチェーンの創出と強化を目指しており、特にASEAN地域を中心に、グローバルな投資を通じた伴走型の成長支援を多数実績として有しています。
企業概要
- 企業名:日本ハイドロパウテック株式会社(Hydro Powtech Co., Ltd.)
- 代表者:代表取締役 熊澤 正純
- 設立:2014年4月
- 所在地: 〒940-0877 新潟県長岡市稲保4-750-3
- 公式HP:https://hydro-powtech.co.jp/
まとめ
本記事では、加水分解製造の独自技術を軸にサービスを展開する「日本ハイドロパウテック株式会社」について紹介しました。
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